コラム

誤情報も流暢に作成する対話型AI「ChatGPT」の科学への応用と危険性

2023年04月11日(火)12時40分
ChatGPT

その回答が必ずしも正しいとは限らない(写真はイメージです) Rmedia7-shutterstock

<「インターネットの登場を超えるインパクト」と言われ、急速にユーザーを増やしているChatGPT。科学の世界でもすでに実験や検証の対象として扱われ、論文の著者としても登場しているが──>

昨年11月末に一般公開され、2カ月で月間アクティブユーザー数が1億人を突破したOpen AI社の対話型AI「ChatGPT」は、自然な分かりやすい文章で利用者が求めた情報に即座に答えてくれる手軽さがもてはやされる一方、課題レポートの作成に使われかねないと教育現場を中心に警戒心も強まっています。

Open AI社は2015年に設立された米国のAI開発会社です。創業にはスペースX社やテスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏が携わり、23年1月にはマイクロソフト社が100億ドルの出資をして株式の49%を取得しました。

ChatGPTの優れた点は、簡単な受け答えだけでなく、「中学生でも分かるように地球温暖化について800字以内で説明して」「(複雑なプログラミングコードを提示し)このコードでバグが発生したので、問題箇所を教えて」「(英作文を提示し)この文をネイティブっぽく直して」などの要求にも数秒で答えてくれることです。

ただし、回答が必ずしも正しい情報とは限りません。ニューヨーク市教育局は「学習への悪影響、コンテンツの安全性、正確性に対する危惧」を理由に、所管の学校端末などからアクセスできないようにしました。

さらに、ChatGPTによる個人情報の収集はEU一般データ保護規則違反の疑いがあるとして、イタリア政府は3月31日、ChatGPTへのアクセスを一時的に禁止しました。Open AI社は対応策を文書で送るとしていますが、問題が解決されない場合、最大2000万ユーロ(約28億円)あるいは年間売り上げの4%の罰金が科される可能性があります。

東大理事「話し上手な『知ったかぶり』と話をしているような感じ」

日本では、東京大が太田邦史理事・副学長名義で3日、学内ポータルサイトにChatGPTに代表される生成系AIへの指針を表明しました。太田氏は「平和的かつ上手に制御して利用すれば、人類の幸福に大きく貢献できる」と期待する一方で、「生成系AIには技術的な課題も存在しており、今後の社会への悪影響も懸念されている」と述べ、ChatGPTを「書かれている内容には嘘が含まれている可能性があり、非常に話し上手な『知ったかぶりの人物』と話をしているような感じです」と評して注意喚起しています。

欧米で規制の動きが見られる中、松野博一官房長官は6日、「ChatGPTの教育現場での活用を巡り、文部科学省が指針を取りまとめる方針だ」と記者会見で語りました。そのような状況の中、Open AI社のサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は来日し、10日に岸田文雄首相と面会してChatGPTの技術的な長所と短所の改善法を説明しました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:トランプ税制法、当面の債務危機回避でも将来的

ビジネス

アングル:ECBフォーラム、中銀の政策遂行阻む問題

ビジネス

バークレイズ、ブレント原油価格予測を上方修正 今年

ビジネス

BRICS、保証基金設立発表へ 加盟国への投資促進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story