コラム

地球内核の回転スピードが落ちている? 自転とうるう秒の謎にも関連

2023年01月31日(火)17時05分

うるう秒が起きる、つまり1日の長さが変わる原因は、いくつかあります。

一つは、月の潮汐力と考えられています。月の引力で、海水と海底の間に摩擦が起こると、地球の自転速度はだんだんと遅くなります。ただし、100年間で1.8ミリ秒(1000分の1秒)程度と換算されており、月の潮汐力だけでUTCとUT1が0.9秒ずれるためには、5万年かかる計算になります。

国立天文台によると、1990年頃には、地球は24時間より約2ミリ秒長くかかって1回転していましたが、2003年の自転速度は24時間プラス約1ミリ秒でした。03年のほうが、むしろ自転速度は速くなっているのです。この現象を説明する有力なものが「自転とは異なる内核の回転速度」です。

96年にコロンビア大のポール・リチャーズ博士とシャオドン・ソン博士は、地震波の移動時間が内核では異なることから「地球の内核はマントルよりも速いスピードで回転している」とする論文を、英科学総合誌「Nature」に発表しました。この時点では、内核の回転速度は具体的に示されませんでしたが、05年に同じ2人によって、「内核は、それより外側の部分よりも1年で0.3〜0.5度速く回転している」と試算されました。

その後、他の研究者らから「内核は自転と同じ方向に常に自転速度よりも速く回転しているのではなく、外核やマントルの粘性の影響で回転が反転する場合があるのではないか」という指摘がありました。

不規則に速くも遅くもなる地球の自転速度

南カリフォルニア大のジョン・ヴィデール博士らの研究チームは22年、ソビエト(71~74年)とアラスカ(69~71年)で行われた地下核実験を用いて、内核の運動について分析しました。地下核実験では、地震のように地球深部まで伝搬する巨大な振動が発生します。しかも、実施の地点、時刻、強度に関する正確な記録があるため、地球内部の精密なデータを得ることができます。

すると、内核は69年から71年にかけて徐々に減速していき、その後の71年から74年では回転方向が逆転していたことが分かりました。これは、地球の自転速度が、不規則に速くなったり遅くなったりして、1日の長さが伸びたり縮んだりする事実を説明できるものでした。

もっとも内核の回転速度は直接測定できないため、すべての研究者が「自転速度の変化の内核由来説」に同意しているわけではありません。内核での地震波の変化は、外核と内核の境界の局所的な変形に起因すると考える研究者もいます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、英の医薬品関税をゼロに NHS支出増と新薬価格

ビジネス

インタビュー:USスチール、28年実力利益2500

ワールド

ネタニヤフ氏、恩赦要請後初の出廷 大統領「最善の利

ワールド

ロシア安保会議書記、2日に中国外相と会談 軍事協力
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story