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がん細胞だけ攻撃する免疫細胞をオーダーメイドで作ることに成功 ゲノム編集技術の歴史と未来
CRISPR-Cas9の登場で、ゲノム編集は世界中の研究室で簡便に行えるようになった(写真はイメージです) LuckyStep48-iStock
<ゲノム編集は、狙った遺伝子を容易かつ正確に改変できる技術として、すでに農作物の品種改良などに応用されている。医療分野では、体内に潜伏するウイルスや病変への効果が期待される>
米のがん治療ベンチャー企業やカリフォルニア大ロサンゼルス校などから構成される研究チームは10日、「がん細胞だけを攻撃する免疫細胞」を各個人に合わせて作成することに成功したと、マサチューセッツ州ボストンで開催された癌免疫療法学会で発表しました。この成果は総合科学誌「Nature」にも掲載されました。
用いられたのは「CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)」と呼ばれるゲノム編集技術で、身体を異物から守る免疫応答システムの司令塔の役割を果たす細胞集団「T細胞」をオーダーメイドでデザインし、増やしました。
ゲノム編集は、酵素の「ハサミ」でDNAを切断して、生物のゲノム(遺伝情報)を人為的に書き換える技術です。それまでの遺伝子工学に使われてきた遺伝子組換えと比較して、安全かつ狙った遺伝子を編集できる技術として、農作物の品種改良などにすでに応用されています。近年は、遺伝子疾患治療の救世主になる可能性があると、医療分野での研究開発が急ピッチで進んでいます。
その重要性はノーベル賞のお墨付きです。CRISPR-Cas9を開発した2人の女性研究者、独マックス・プランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ所長と米カリフォルニア大バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授は、開発のわずか8年後の2020年にノーベル化学賞を受賞しました。
ゲノム編集技術の歴史と未来を概観しましょう。
CRISPR-Cas9のCRISPRは「Clustered regularly interspaced short palindromic repeats」の略で、細菌のDNAにある繰り返し配列のことです。1987年に九州大学の石野良純教授らが大腸菌のDNAに同じ配列が5回繰り返されている部分があることを発見しましたが、当時はそれがどのように作用するのかは不明で、特別な注目はされませんでした。
後に石野教授の論文をもとに、欧米の研究者たちは、この繰り返し配列がウイルスなどの外敵の侵入を認識して攻撃する免疫システムに関わっていることを突き止めました。CRISPRの近くには、DNAを切断(分解)する酵素に関する遺伝子群が存在しました。酵素はCas(CRISPR-associatedの意味)と名付けられました。
シャルパンティエ所長とダウドナ教授は、12年に米総合科学誌「Science」に掲載された論文で、化膿性レンサ球菌にはCRISPRとCas9によって外敵であるファージ(細菌に感染するウイルス)のDNAを切断する免疫応答があることを明らかにし、この免疫システムはゲノム編集に応用できる可能性があると提唱しました。
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