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あくびをする動物──ヒト、ライオン、ジュゴン──と謎だらけの「あくびの科学」
さらに2011年にギャラップ氏とメリーランド大のゲイリー・ハック氏は、あくびによって副鼻腔を仕切る壁が動いて送風機の役割を果たし、脳に空気を送り込んで温度を下げるという仮説を発表しました。この仮説は、なぜ存在するのか分からなかった副鼻腔の存在意義も、「あくび―副鼻腔―脳冷却」というラインで説明できる画期的なものでした。
この仮説が本当であれば、脳が大きい動物ほどあくびが長くなると予想されます。
2021年にユトレヒト大(オランダ)、ニューヨーク州立工科大(アメリカ)を中心とした国際研究チームは、動物園で飼育されている動物101種(哺乳類55種、鳥類46種)、697個体(哺乳類426種、鳥類271種)を動画撮影して、合計1291回のあくび(哺乳類622回、鳥類669回)の持続時間を分析しました。その結果、あくびの持続時間と、脳の質量、脳の全ニューロン数、皮質のニューロン数の間には、強い正の相関関係があることが明らかになりました。脳のサイズが大きかったり高密度なニューロンを持っていたりする場合は、冷却のためにより多くの血流が必要になるため、あくびは長くなると考えられます。今回のデータは、脳冷却仮説を支持し、あくびはヒトだけでなく種を超えて保存されている行動であることが示されていると言えます。
「あくび伝染」が手がかりに?
ところが2021年、三重大などの研究チームは、完全に水中で生活するハンドウイルカがあくびをすることを初めて確認しました。さらに2022年3月には、同じ水棲哺乳類であるジュゴンのあくびを確認したと発表します。
今回の研究は、国内で唯一飼育されている鳥羽水族館の雌のジュゴン「セレナ」を約20時間観察してあくびのような動作を14回確認したものです。
イルカやジュゴンは水中では呼吸をすることができません。水面に出て、鼻孔(噴気孔)から空気を取り入れ、肺呼吸をします。水中で「口をゆっくり開け、最大の状態をしばらく維持し、その後急速に閉める」という行動を休息状態の時に行ったため、あくびと結論づけたと言います。これが本当にあくびならば、「あくびには呼吸を伴う必要はない」という説を支持することになります。
では、あくびは何のために行うのでしょうか。
生理的機能を重視する説のほかに、社会的機能を重視する「社会コミュニケーション説」も有力視されています。
2010年、スイスのジュネーブ大のエイドリアン・G・グッギィスベルク氏たちは、「あくびは(眠気や退屈のような)生理・心理状況を他者に伝える社会的シグナルの役目を果たしている」と主張しました。その根拠の1つに「あくび伝染」が挙げられます。
あくび伝染は、他者のあくびしている姿を見たり、あくびの声を聞いたりすることで自分にあくびが生じることです。ヒトでは5歳頃までは起こらず、共感性や自己認知能力が高い人ほど伝染が生じやすいとされています。さらに、見知らぬ人のあくびよりも、知人、友人や家族のあくびのほうが伝染しやすいことも研究されています。
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