コラム

ネコはイヌより薄情? 2021年にわかった、ニャンとも言えない習性

2021年12月28日(火)11時30分

2.ネコは飼い主に不親切な人を嫌わない(イヌは嫌う)

京都大学コンパニオンアニマルマインドプロジェクト(CAMP)の千々岩眸氏らの研究チームは、「ネコは飼い主に対して不親切な人を嫌わない」という研究結果を発表しました。

この研究は、同チームが2015年にイヌに対して行った実験をネコを対象に行ったものです。

実験では、ネコの前で3人が演技をしました。中央に飼い主がいて、何らかのアクションをする応答者と何もしない中立者が両側にいます。飼い主は、ネコにとって価値のない物体を入れた透明の箱のフタを開けようとします。なかなか開けられないので、応答者に助けを求めます。

援助条件では、応答者が箱を支えて助けたおかげで、飼い主はフタを開けて物体を取り出せました。援助拒否条件では、応答者は顔をそむけて援助を拒否しました。その結果、飼い主はフタを開けられませんでした。統制条件では、飼い主は援助を特に求めず、しばらく手を止めました。その間、応答者は理由もなく顔をそむけました。飼い主はこの場合もフタを開けられませんでした。いずれの場合にも、中立者は何もしませんでした。

演技終了後、応答者と中立者は手のひらにおやつをのせてネコに差し出しました。ネコは、応答者、中立者の選り好みをせずにおやつをもらいました。

イヌの場合は、援助条件と統制条件ではイヌは選り好みをしませんでしたが、援助拒否条件では、高頻度で「飼い主に不親切だった」応答者を避けて中立者からおやつを取りました。

つまり、イヌは自分の利益とは関係なくても飼い主に協力的でない場合にはその人物を避けますが、ネコは飼い主に非協力的な人物でも避けないようです。これは、イヌは飼い主を助けた人物に対して好印象を抱いている可能性と、ネコは飼い主を手助けしたか否かでは人物評価をしない可能性を示唆しています。この違いは、イヌが社会的な動物であるいっぽう、ネコは個別に狩りをする動物であることに関係がありそうです。

もっとも、ネコは飼い主自体に無関心というわけではありません。オレゴン州立大学の研究チームは2019年に、「ネコは自分のことを気にしてくれる人に懐く」「ネコは食べ物やおもちゃよりも人間と遊ぶのを好む」と発表しました。

イヌと比べると「構おうとすると逃げる」「あまり懐かない」と思われがちなネコですが、ネコはネコなりの方法でヒトとのコミュニケーションを楽しんでいるようです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 

ワールド

インドのロシア産石油輸入、減少は短期間にとどまる可
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story