イタリア事情斜め読み
イタリアの移民法令は茶番。メローニ首相が欠陥を認め法律を変える
| ボッシ・フィーニ法は逐一変更しなければならない
ジョルジア・メローニ首相は、正規移民のイタリア入国を規制する「ボッシ・フィーニ法」を変更する必要があると決意した。
この移民流入を防ぐための法令が、逆に非正規移民の流入を増やし、何千人もの移民の不法入国を密かに行っていることが明らかになったのだ。
メローニ政権が2022年12月と2023年9月に発動した過去2つの移民令で、移民の流入データを調査した際に、歪みが浮き彫りになった。
イタリア内務省市民自由移民局 2024年6月11日までの統計ダッシュボードによると、2023年には54,801人がイタリアに移民が上陸した。2024年1月より6月11日までで22,944人の移民が既に上陸している。
2002年以来イタリアで移民を規制してきたこの法律は、20年間にわたって中道右派の象徴であり、集団を統合する機能を持つ社会制度であったが、現在、メローニ首相が最も頼りにしている顧問、アルフレッド・マントヴァーノ官房次官が、それを変えることを提案しているという。
転換点の理由は明確で、「メローニ政権の重要な進化を示す」ものとなるからだ。
マントヴァーノ事務所が調整する内務・外務・労働・観光省の技術委員会は数週間にわたり、大使館が発給したビザ、許可、労働契約の数を評価した結果、「流入令は、何千人もの移民の不法入国の密かな形である」ということが明るみになった。
カンパーニャ州では、ボッシ・フィニ法のおかげで正規ビザで入国する100人のうち、正規契約で雇用された人はわずか2.8%だった。
残りの97.2%の労働者、特に季節労働者は注目されておらず、「彼らについてはもう何も知られていない」と、メローニ首相は推論し、「システムが機能不全に陥っているため、組織犯罪が起きていることからも緊急に行動を起こす必要がある」としている。
メローニ首相は、「この制度の欠陥を利用して金儲けをしている人がいる。イタリアで働くために、移民は一人当たり1万3000ユーロ (約220万円)〜1万4000ユーロ(約237万円)くらいを支払わされているということで説明は十分だろう。」と述べた。
この体制の"センセーショナルな歪み"は主に中道左派政党が統治していた過去10年間に関係しているというメッセージも伝えながら、ボッシ・フィーに法には欠陥があったと率直に認め、法律に修正を加えることを発表した。
|「ボッシ・フィーニ法」とは
2002年法律第189号、移民の規制および外国人の条件に関する規則を統合した法律に、さらに修正を加えたもので、 イタリアへの移民を規制するものである。
ベルルスコーニ第2次政権でイタリア評議会の副議長を務めた最初の署名者ジャンフランコ・フィーニ制度改革担当大臣とウンベルト・ボッシ地方分権担当大臣によってその名が付けられた。
署名したのが彼らだったという事実は、中道右派がこの法案に与えた象徴的な価値を物語っている。
制限的な手続きの開始に加えて、家事労働者、介護者、不法労働者の正規化手続きを全て郵便局ですることができるもので、要約すると、この法律の主な革新は
・国境までの追放を伴う。
・有効な仕事につながる居住許可を与える。
・人身売買業者に対する罰則の強化。
・家事労働者、高齢者・病人の介護者、障害者の補助者には少なくとも1年間の雇用契約を結び、労働者のための療養所を与える。
・不法移民の人身売買に対抗するために海軍艦艇を使用して移民を特定し入国拒否を海上で行う。
今、このボッシ・フィーニ法には欠陥があり、それを変えようとするイタリアの法改正が現在進行中である。
| ボッシ・フィーニ法が予見していたこととは違った、欠陥と失敗
1)国境まで同行する追放
不法移民、つまり居住許可と有効な身分証明書を持たない移民は、行政的に追放され、国境まで同行しなければならない。
有効な書類を持っていない場合、拘置所に送られることになるが、この拘置所はトルコ・ナポリターノが設立したもので、一時常設支援センター(CPTA)と呼ばれ、その後CIE(身元確認・追放センター)となり、現在はCPR(本国送還収容センター)と呼ばれる施設へ送られるが、地中海を渡って到着する人が急増し、CPR(本国送還収容センター)には1週間で1万人を超える移民が押し寄せる事態で制御不能となった。
2)有効な仕事につながる居住許可の失敗
ボッシ・フィーニ法の重大な欠陥を表しており、この20年間のイタリア移民政策の失敗の原因となっているのはこの規則である。
"見知らぬ人たちと会う"という茶番劇のボッシ・フィーニ法は、イタリアに合法的に入国する唯一の方法であり、すでに雇用契約を結んでいることが条件であるが、それはお互いを知らない雇用主と労働者の会談を前提としているため不条理だ。
移民はすでに雇用契約を結んでいる場合にのみ入国でき、最長2年間の滞在許可の発行は雇用契約に依存する。
しかし、雇用主は見知らぬ人を雇うべきであるというメカニズムであったが、これは現実には反映されていなかった。
巨視的なデータから見て、率直に浮かぶ疑問は、「一度も会ったこともない人、いつ到着するかも分からない人を雇う雇用主はいるのだろうか?」ということである。
イタリア人雇用主の要求と外国人労働者の申し出との間に、雇用契約が成立していたとすれば、それは、既にイタリアに滞在していた不法移民を偽装正規化したにすぎない「フィクション」だ。
昨年の12月末にメローニ政権によって発令された雇用主による「事前確認」を規定する最新の法令が制定されるまで、この「フィクション」は続いた。
また、外国人労働者の雇用を申請する雇用主は、最初にイタリア人労働者を探したが見つからなかったことを証明する義務がある。
長い官僚的手続きを経ることを強制する規則だった。
20年間で、季節労働者を除けば、外国人労働者を正規化したのはわずか80万人であり、これに恩赦の恩恵を受けた200万人を加えなければならない。
これは、右派政権の観点からすると、"外国人がほとんど来なかったので、うまくいった" と、いうことか?といえば、全くそうではない。
より多くの人を不法に連れてきてしまった。
違法な人身売買を促進してしまっていたのだ。
イタリア社会と経済のニーズに応えていないことを意味している。
3)治外法権内での*ルフールマン行為と幇助罪
誰が亡命を申請する権利を持っているか、誰が治療を必要としているかを確認するために海上で警察に直接移民を特定させ、出身国との二国間協定で情報を共有し協力することで、該当者以外の他の移民を即座に入国を拒否し、イタリアで移民が下船するのを防ぐことが目的であったが、その後、移動集団は海上ルート以外から不法密入国者は続々と上陸し、この制御ネットワークを逃れたので、欠陥は必然的に大きくなった。
*国際的にはノン・ルフールマンとして知られるノン・ルフールマンの原則は、難民申請者を受け入れている国が「人種、宗教」を理由に迫害される危険性が高い国に難民申請者を送還することを禁じる国際法の基本原則
2012年、欧州人権裁判所大法廷は、イタリアを第2議定書の第3条と第4条に違反したとして非難した。
200人の移民を受け入れ、リビア当局に引き渡したとして、欧州人権条約第4条および第13条に違反した。
また、2018年、当時のイタリア内務大臣マッテオ・サルヴィーニ氏は、リビアから逃れてきた93人の移民の受け入れを拒否し、その結果として移民の本国送還を商船に委任する「民営化された反対運動」を組織したことでノン・ルフールマン義務に違反したとされた。
この決定により、移民たちはリビアのミスラタ港に戻り、そこで殴打され、拷問を受け、場合によっては殺害された。
組織的なプッシュバックの実践はさらに13回繰り返された。
4)人身売買業者に対する罰則の強化については、不法移民の幇助と教唆の場合、入国者1人当たり最高3年の懲役と1万5000ユーロ(約254万円)の罰金が科せられるとしたが、このルールは、後年、NGOの救援活動を阻止するために使われた。
| クトロの大惨劇
クトロ虐殺、2023年2月26日、約200人の移民を乗せてトルコを出港したボートが、イタリア・カラブリア州クロトーネから数キロ離れたステッカート・ディ・クトロの海岸から150メートル離れた浅瀬で真っ二つに割れ、クロトーネ県クトロ沖で沈没した。
乗客の大半がイラン、アフガニスタン、パキスタン出身で、子ども34人を含む94人の死亡が確認された。
クトロの惨劇の後、メローニ首相の次に最も影響力のある有力な政治家で、首相の側近であるアルフレッド・マントヴァーノ首相府次官は、ボッシ・フィーニ法を歴史の中に葬り、移民法全体の再設計をしなければならないと語った。
元々、マントヴァーノ氏は、20年前に内務次官としてボッシ・フィーニ文書に多大な貢献をした人物であり、「法の父」と呼ばれている。
そんなマントヴァーノ氏が、「ボッシ・フィーニ法は今では道化師の法律となっている。渡り現象の起源が大きく変わってしまったので、法律は変えられなければならない。」と述べている。
緊急法令と、その日を迎えた移民法全体を改正することは別のことである。
近年イタリア右派で繰り返されている「不法移民排斥」のトーンとは大きく異なる。
今日、それは世界的な規模を持ち、戦争、大量虐殺、自然災害、基本的人権の集団的侵害の危険から逃れてくる人々に亡命の権利を保障するという国際的義務だけでなく、道徳的義務とも益々関連してきている。
| 移民流入令の改革案とは
改革派右派の案からマントヴァーノ氏の案、そして、必然的にこの分野に最も関与している左派や社会的カトリック主義に引き寄せられている団体は、それほどかけ離れた案というわけでもない。
最も具体的かつ詳細な提案は、「私は外国人でした」キャンペーンだという。なんだか、よくわからないキャンペーンだが要約すると、
1)スポンサー制度の再導入
これは、外国人労働者がイタリアに来て雇用され、労働市場に参入できるようにする個々の雇用主によるアクセスを保証し、十分な財源を確保するものである。
しかし、前述の「フィクション」と何が違うのか?
最も明白なのは、この採用には、クリック日(申込み申請日)が設定される。
特定の分野が定義されるのを待つことなく、いつでも行うことができ、すでにイタリアの労働市場にほぼ「非公式」でアクセスできている何十万人もの非正規移民は、「今はイタリアにはいません」などと、イタリア国外にいるふりをする必要はない。
2)すでにイタリアに移住し現地に根付いている外国人を個人ベースで正規化
実際、イタリアでの就労活動の存在が証明できる場合、推進団体は不法滞在の状況にある外国人を個人ベースで正規化することを提案している。
それは、スペインとドイツをモデルにしている。
この居住許可は、いつでも個人ベースでアクセスでき、恩赦とは無関係な手続きを提供する必要がある。
要件を満たしていれば、いつでも許可を申請できる。つまり、まだイタリアに入国していない人が、命の危険を冒してまで海を渡ってくる必要はないのだ。この提案は移民問題の核心である。
この改革案が通れば、すでにイタリアで非正規に働いている外国人は、恩赦を望むだけで正規移民になれる。
3)雇用を求めるための一時滞在許可の導入
違法な人身売買と競合する可能性のある合法的なルートを作る。
許可は12ヶ月間。
イタリアの雇用主との面談を促進し、特定の専門家の要請に基づいて選ばれた者が、イタリアに来て面接を実施し、雇用を決定することを可能にするために、第三国からの労働者に発行されるべき「一時滞在許可」を与える。
ちなみに、イタリアの非正規労働者の4分の1は家事労働に従事している者である。
この提案は民主党と第三極政党によって支持された。
これは、野党の新たな連携の可能性も期待され、政治的にも重要な手がかりになる。
メローニ首相は、閣僚理事会で説明を行い、G7サミット終了後の最初の会合で法律の条文に移行することになるだろう。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie