オーストラリアの診察室から
オーストラリアの専門医資格取得への道について
日本では、研修医が労働時間の長い心臓外科や消化器外科などを避け、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の高い美容外科や精神科に進む傾向が増えていると、ネットやメディアで話題になっています。日本では基本的に医師は希望する専門領域のトレーニングを受け、専門医資格の取得を目指すことができます。今のところ、日本では専門医のトレーニングプログラムや専門医の数に対する上限はありません。また、診療科によってアメリカやオーストラリアほど収入が大きく異なることはありません。さらに、専門医資格がなくても最低限の初期研修を終えていれば開業することも可能です。
オーストラリアでは、日本とは異なり、専門医資格を持っている医師とそうでない医師の間にさまざまな違いがあります。専門医資格の分類方法も日本と異なる部分があります。オーストラリアにはAustralian Medical Council(AMC)という医学教育や医学トレーニングの基準を認定する国の団体があり、このAMCによって、専門医資格トレーニングが認証されます。専門医資格取得のトレーニングプログラムに毎年入れる人数が決まっています。オーストラリアで専門医資格を持っているかどうかで医療制度上できること、できなきないことにかなりの差があります。まず、専門医資格を持たないと基本的に開業できません。また、専門医資格によって請求できる保険診療の種類や範囲が異なります。例えば、盲腸の手術の保険診療は外科系専門医の資格がないと申請できません。オーストラリアでは手術を行うほうが問診、処方箋等の通常の診療より診療報酬が高くなるため、外科医の収入は内科医より一般的に高くなります。一方で、トレーニング期間も長く、緊急手術などがあるため労働時間が長くなることが多いです。
オーストラリアで専門医資格を取得するためには、最低2年の研修を修了した後、各科のトレーニングプログラムに応募します。しかし、前述のようにプログラムには定員があり必ずしも受け入れられるとは限りません。受け入れられなかった場合は未承認の研修を行い、再度応募することになります。トレーニングプログラムには様々な試験があり、内科系の専門医など一部の科ではトレーニングプログラムに入る前に試験を受ける必要があります。科によってはプログラム修了後にも試験に合格する必要があります。試験に合格しなければトレーニングプログラムに入ることも、専門医資格を取得することもできません。夜勤や週末のシフトをこなしながら試験勉強をするのは容易ではありません。最近ではほとんどの科で専門医試験の受験回数に制限が設けられています。例えば、循環器や消化器内科などの内科系専門医資格の場合、3回までです。内科系の場合、3回の試験に不合格だと他の分野を選ばなければなりません。トレーニングプログラム修了のための試験がある場合、それに失敗するとこれまでの努力が水の泡になる可能性があります。
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トレーニングプログラムを修了できなかった場合、他のプログラムに応募するか、バイト医として働くか、またはCareer Medical Officerとして働くという選択肢があります。特に救急医療ではバイト医の需要が高く、休暇中の医師の代理としても必要とされています。Career Medical Officerはバイト医とは異なり、永久雇用または長期契約が多いです。例えば、救急医として通常のスタッフとして働く場合がありますが、救急の運営には関与しません。救急のトレーニングプログラムに参加しないため、試験も必要ありませんが、ポジションが変更されることもあります。
オーストラリアではこのような専門医資格制度により、専門医資格保持者の数を制限し、質を保つ取り組みを行っています。
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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