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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

オーストラリアのADHD治療問題

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近年、オーストラリアではADHDの診断や治療を求める患者が増加しています。ADHDとは、注意欠陥多動性障害の略称であり、注意力や集中力、衝動性、活動レベルなどに影響を及ぼす神経発達障害です。以前は主に子供がこの病気と診断されていましたが、近年では大人になってから診断されるケースも増えています。かつては不安障害と誤診されていた人々も実はADHDであった場合も増えています。ADHDは子供だけでなく大人の日常生活、学業、仕事、人間関係などにおいても困難をもたらす可能性があります。

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ADHDの診断は一般的に精神科医や小児科医もしくは臨床心理士などの専門家によって行われます。診断には、患者や家族、教師などからの情報収集あるいは標準化された質問用紙や検査などが用いられます。ADHDの治療には、薬物療法と非薬物療法の両方があります。薬物療法では、主に精神刺激薬が処方されます。これらの薬は注意力や集中力を高める効果がありますが、副作用や依存性のリスクも伴います。精神刺激薬は乱用や依存の危険性があるため、オーストラリアではSchedule8という管理、処方が厳しい薬の分類に指定されています。痛み止めの一つであるオピオイド鎮痛薬もSchedule 8に分類されます。精神刺激薬の処方にはまず精神科医や小児科医の診断が必要です。大人の場合は症状が安定した後には、総合診療医GPからの処方も可能ですが、その際には患者は特定のGPを選ぶ必要があります。精神刺激薬の処方には他の薬と比較してより厳格なルールが適用されます。精神刺激薬の処方には、州によっても異なる規制が存在することもあります。また、精神刺激薬の処方には、GPも州政府に許可の申請を行う必要があります。そのため、新規患者が直接精神刺激薬の処方を希望しても、容易には処方されないことがあります。

非薬物療法では、行動療法や認知行動療法などが行われます。これらの治療は、患者や家族がADHDの症状や困難に対処するためのスキルや戦略を学ぶことを目的としています。

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子供の場合、精神科や小児科からADHDの診断が下されると政府から治療への補助金などが支給される場合があります。また、学校での追加のサポートも受けられるようになります。しかし、ADHDが疑われる子供が専門の小児科医に受診するのに6か月以上かかることもあります。大人の場合でも精神科でADHDの診断を受けるための初回受診には6〜9か月かかることがあります。

ADHDへの関心が以前よりも高まっていることは良いことですが、潜在的な患者数に対して専門家の数が不足している状況にあり、今後の改善が望まれます。

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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