スタートアップ超大国 インド~ベンガルールからの現地ブログ~
インド・スタートアップエコシステムとの付き合い方(パートナー選定編)
前回の記事では、入門編ということで基本的な姿勢や嫌われるポイントについて解説しました。
インド・スタートアップエコシステムとの付き合い方|スタートアップ超大国 インド~ベンガルールからの現地ブログ~|World Voice|ニューズウィーク日本版 (newsweekjapan.jp)
前回に続いて今回は、やや具体的なケースに基づいて目的に応じた、インドのスタートアップエコシステムとの組み方ができるようなTIPSをご紹介します。
1.目的に合致したパートナー、人材との出会い方
本寄稿では、かなり繰り返しの表現になっていますが、今一度強調したいです。
誰しもビジネスするなら、目的と合致する人や不快感のない人と出会いたいのが本音です。
過去の寄稿では、属性別で確率論からアプローチしましたが、それでもダメな時はダメという場合もあるので、ダメ=ミスマッチを防ぐためには何をしたらいいのかを以下事例をもとにTIPSを紹介します。
[採用におけるミスマッチの事例]
「日本での勤務経験あり、日本語流暢、リサーチ経験もあるので、市場調査要員(将来的にはマーケティングも管掌)として雇用したが、出てくるアウトプットが外資系コンサルのレポートの翻訳(ところどころ表現がおかしい)、または公開情報を単純に翻訳しただけで、期待していた示唆や見解がなく、要件とミスマッチ。」
ーーーどうすれば、ミスマッチを防ぐことができたか?:
この場合ですと、通訳や翻訳要員としての採用だったら、ミスマッチはなかったかと推察できます。
加えて、経歴がよく見えても雄弁なだけでアウトプットが期待値以下というケースもあるので、本件においては、リファレンスチェックを実施し、裏取を行った上で、本採用を決める前に有償型インターンのような形で事前にアウトプット評価を実施すれば雇用条件とのミスマッチが防ぐことができたでしょう。
<リファレンスチェックのやり方(オフィスワーカーの場合)>
1:候補者(中途、新卒問わず)に対して、面談時に実施する旨を通達。リファレンスチェックのために、指導教授、前前職の上司、同僚の連絡先を開示するように依頼。(この時点で渋るようなら採用プロセスから除外してOK。)
2:リファレンスチェックで、過去の職務内容と成果が本当に事実なのか確認、評価も実のところはどうか確認する。この確認の際に、ネガティブなコメントがあったら、採用プロセスの中で減点要素とする。
3:IT系だと、このプロセスに加えて、コーディングテスト、実際のプロダクト開発環境を疑似的に経験してもらって、本当に技術力があるのかどうかを評価することで、ミスマッチが減っていくと推察できます。
留意点:たとえ、無職の状態であったとしても事情等があると推察できるので、「無職=何か問題があった」と即断してしまうのではなく、上のようなプロセスを繰り返すべきです。
採用に続いて、パートナー選定(ここでは、代理店)に関するミスマッチを紹介します。
[パートナー選定におけるミスマッチの事例]
「先方の社長が、日本の大学を卒業し、日本企業でも勤務経験があり、日本語もかなり流暢に話すので、徐々に仲良くなっていき、この方なら信頼できると感じて新しい代理店として交渉を開始。しかし、片務的に情報を求めてくるだけで全然商品販売の話にならず、しっかりビジネスの話をしようという話をしたら逆切れして終わった。」
ーーーどうすれば、ミスマッチを防ぐことができたか?:
この手の話は、私も静岡の実家で自営業の手伝いをしていた際に、まさに父の友人だった人間にやられて、大変な目にあったので、このようなトラブルは万国共通だと痛感した次第です。笑
このケースでは、まだ金銭の話になってなく、代理店選定でのトラブルにとどまっているので、大事には至っていませんが、以下のポイントを気を付けないと、もっとひどいトラブルになってしまうので、気を付けるべきです。
<パートナー選定における確認点>
(1) お互いの利益が明記されており、組むことによってお互いが目的達成に近づくことができるか双方握ることができているか?
(2) 両社の関係性において、片務的になっていないか?
(3) ビジネスプロトコルはお互い許容できるか?:コミュニケーションの頻度、仕事の進め方、締め切り管理、危機管理の手法等において極端な乖離はないか確認できているか?
(4) NDA, MOUを結ぶ際に違和感のある態度やコミュニケーションはないか?
留意点:友人としてではなく、ビジネスパートナーとして合うかどうかを気にすべき。ビジネスパートナーはWIN-WINの関係であるべきなので、片務的になってしまっては危ないです。
ここで、私の過去の経験を紹介すると、NDAに関連して、先方から「実証事業で技術を試したいから見積もり・仕様等を送ってほしい。」と連絡がきたので、「まずは情報開示のためにNDAとMOU結びましょうよ。」と連絡を返して、アイディアについても機密事項抜きで送ったら、連絡がなくなり、アイディアだけパクられた形になりました。後日、界隈の人から「その会社は全部自分でやりたいからパートナーシップはありえないんじゃない・・・?」と言われたので、結果危なかった・・・という展開で済みました。
2.インドのスタートアップエコシステムとの折衝で気を付けるべき点
上記での事例紹介では、やや一般論に近い形だったので、スタートアップ特有の点についても触れます。
(1) リファレンスチェックは徹底する:経歴詐称だったとか、EXITが嘘だったとか採用の話よりもきつい話が出てくるので、時間をかけて実施すべきです。私も、ど新規の飛び込みできて、なんか怪しいなと感じたスタートアップには「申し訳ないんだけど、リファレンスチェックしていい?」とストレートで聞いて、音信不通になればなったで大事に至らなくて済んだとなりますし、協力してくれれば、心配しすぎたけど、よかったとなります。
(2) トラクションや技術が本当なのか点検する:デモや実機でもいいですし、この点を確認しないと、「張りぼてでした!実はアイディアだけだったんです。」となってしまい、片務的にお金だけ取られてしまうケースもあるので、注意が必要です。
(3) 速度がかなり速いので、お互いの利益が合致しているのか確認する会議や打ち合わせを短時間のコールでもいいから実施する:スタートアップを取り巻く環境は日々変わり、さらに生き残るためには意思決定を即断即決で実施しているので、「今のステージと合わない」といったようなケースになって交渉が途中で頓挫してしまう場合もありますので、相手がどんな状態で何が欲しいか、変わるとしたらいつ変わるか、何に変わるのかは想定ないし事前に聞いておくとミスマッチがないと想定できます。
さて、上記のようにまずはパートナー選定からTIPSを紹介してきましたが、次はテーマを変えて実務的な部分にも触れるようにします。乞うご期待ください!
著者プロフィール
- 永田賢
Sagri Bengaluru Private Limited, Chief Strategy Officer。 大学卒業後、保険会社、人材系ベンチャー、実家の介護事業とキャリアを重ね、2017年7月に、海外でのタフなキャリアパスを求めてYusen Logistics India Pvt. Ltdのベンガルール支店に現地採用社員として着任。 現地での日系企業営業の傍ら、ベンガルールを中心としたスタートアップに魅せられ独自にネットワークを構築。2019年4月から日系アグリテックのSAgri株式会社インド法人立ち上げに参画、2度目のベンガルール赴任中。
Linkedin: https://www.linkedin.com/in/satoshi-nagata-42177948/