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中国航海士・笈川幸司

笈川幸司|中国

第21回 中国で日本語を教えている教師からの質問②

中国で日本語を教えている教師からの質問②

前回に引き続き、今回も中国人で日本語を教えている教師からの質問に答える形で、この章を進めていきたい。

この数ヶ月、日本語教師セミナーを何度か担当した。たくさんの質問をいただいたが、答えられなかった質問もあったので、この場をお借りして質問にお答えしたい。

日本語教師:「作文を添削するときに、私は赤ペンで誤りを訂正し、正しい答えとその説明を書いていますが、学生たちはなかなか良くなりません。この方法は間違えているのでしょうか」

日本語に興味があり、成績も優秀で、毎回誤りが2、3個程度の学生には有効だと思う。したがって、「この方法が間違えているかどうか」という質問であるなら、私は「間違えていません。正しいです!」と答えたい。

しかし、現代の若者たちの多くは多忙で、いつも何かしらプレッシャーを抱え、心に余裕がないため、予習・復習をする時間が少ないようだ。そういう学生に対し、作文を添削するときに、赤ペンで誤りを訂正し、正しい答えとその説明を書いても、なかなか良くならないのは当然のことだと思う。理由は、学生たちは説明を読まないからだ。学生たちは、自分が批判されている内容は読みたくないので、誤りは赤字にせず、黒字のまま、こっそり正しく書き直し、出来上がったら、「わー、本当に素晴らしい作文でしたよ。内容も面白かったので、楽しく読ませていただきました。でも、油断しないで次回も頑張ってくださいね!最後に、この作文を、今日中に4回以上、時間を計って音読してくださいね。自然と流暢に読めるようになると思いますし、60秒以内で読めるようになったら、音読がもっと楽しくなるはずですよ。頑張ってくださいね!音読が終わったら、私にひとことメッセージをください!」などとコメントしたら、学生たちのモチベーションは上がるだろうし、基礎的な文法の誤りに自分で気づき、正しく書けるようになる。さて、このようなやりとりを学生としているうちに、「毎回素晴らしい作文を出してくれてありがとう。次回からは、『いつも作文を添削していただきありがとうございます。本日も精一杯書きました。どうぞご指摘ください』といった挨拶文を書いてみてくださいね。感謝の気持ちを相手に伝えると、これから王さんが出会う人たちもきっと喜んでくれるはずですよ。日本に留学するときも、社会人になったときも役立つと思いますから、次回から練習してみませんか?」というと、大抵の学生は素直に「大事なことを教えていただき、ありがとうございます」と言って、次回から感謝文が届くようになる。学生たちはもともと感謝の気持ちがないわけではないので、感謝を相手に伝える方法を、上から目線で無理矢理押し付けるのではなく、提案という形で、学生たちの機嫌が良いときに話してみるのはどうだろうか。

これは夫婦関係、親子関係でも同じだ。「自分は正しい。あなたは間違っている」という言い方で夫婦円満、良好な親子関係が築けるとは思えない。「洗濯物をたたんでくれてありがとう。嬉しかったよ。次からは、わきのところに合わせてたたんで欲しいな。ちょっと、今やってみない?」と言われたら、「そうやってやさしく言ってもらえるなら、まあ、やってやってもいいか」と思うだろう。学生たちにも「先生がそこまでやさしく丁寧に教えてくれるなら、まあ、ちょっとぐらい頑張ってやってもいいけどな」と思ってもらえるだろう。

多くの学生は面倒な作業をせず、楽して上手になりたいと考えているようだ。大人だって楽してお金稼ぎをしたいと考えている人がいるのと同じで珍しいことではない。しかし、スキル習得には面倒な作業が伴う。だが、やりたくない面倒な作業でも、先生にやさしく丁寧に指導してもらえるなら、仕方なくやるだろう。ただ、その結果、成績が劇的に良くなっても、学生は先生のおかげだと思ったりしない。感謝することも、それがどこかで役立つまでは、大事だと実感できないし、本当に役立って初めて、人に感謝するって、思ったよりメリットが多いんだね!ということがわかり、人に感謝できるようになる。試験で良い成績をとっても、コンテストで優勝しても、良い大学に合格しても、フラットな心の状態なら「ガハハハ、俺様のおかげだぞ!」と思うのが自然だと思う。もし、人というは、みなそういうものだとわかっていたら、教師だって学生の態度に腹を立てたり悲しんだりしなくても済むだろう。

自分の若い頃を振り返ってみると、35歳前後までずっとそうだったし、ある程度実力がついてきたら、周りがどんどんバカに見えてきて、自信過剰になり、天狗の鼻が天に届きそうだった。それに、「本当に謙虚な人」など、この世には一人もいないと私は思っている。

秘書時代、代議士から「お前は偉そうだ」と言われたことがある。わたしは、「自分は謙虚です。偉そうにしたことはありません」と口答えしてしまったが、「謙虚な人間は口答えをしないものだ。謙虚な人間は、瞬時に『すみませんでした。偉そうにしているつもりはありませんでしたが、これから気をつけます』と答えるものだ」と叱られた。

「自分は偉そうにしていない」と考えたり、言葉にした時点で、すでに偉そうにしている人間だということだ。どんなに謙虚に振る舞っていても、核心をつかれたら、ついボロが出てしまう。代議士に指摘され、答え方まで教えていただいたが、もし、自分なりに答えを出すなら「はい、謙虚にできないところがわたしの欠点です。周りから大目に見てもらっているので感謝しています。これからもっと気をつけます」という感じになる。

話はかなり飛んでしまったが、

日本語教師:「作文を添削するときに、私は赤ペンで誤りを訂正し、正しい答えとその説明を書いていますが、学生たちはなかなか良くなりません。この方法は間違えているのでしょうか」

学生がその後、正しく書けるようになるかどうかとは関係なく、これは、教師の単なる自己満足に過ぎないと思うので、「私は自己満のために赤ペンで直しています。悪意はありません。間違いを指摘して学生を辱めるつもりもありません。ただ、学生が上手になるかどうかなど知ったこっちゃありません」という開き直った気持ちでやり続けるか、本当に学生のためを思うのなら、やり方を勉強して変えるしかないだろう。

きつい言い方をしてしまい、申し訳ないと思う。しかし、学生たちの本音を聞いてみると、先生は、自分の学生が勉強しないことにイライラして、「昔の学生は素晴らしかった。いまの学生はダメだ」と言って比べられ、毎日嫌な思いをしているそうだ。実は、このやり方は、教育学の研究にもあって、「お前たちはダメだ」と言われ続けたクラスの学生たちは成績も落ち、劣等感を抱いたまま社会に出て、幸せを感じられない人生を送ってしまうという実験結果が出ている。

うまくできない学生を見てもけっしてため息をつかず、遅刻してきてもイライラしないで、「大丈夫?どうしたの?」と心配し、授業中に寝ている学生の周りの学生には「しーっ、起こさないで!疲れているはずだから!」と言ってあげられたらいいなあとつくづく思う今日この頃である。

笈川幸司 中国浙江省杭州市にて

 

Profile

著者プロフィール
笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。中国滞在20年目。北京大学・清華大学両校で10年間教鞭をとった後、中国110都市396校で「日本語学習方法」をテーマに講演会を行う(日本語講演マラソン)。現在は浙江省杭州に住み、日本で就職を希望する世界中の大学生や日本語スキル向上を目指す日本語教師向けにオンライン授業を行っている。目指すは「桃李満天下」。

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