中国航海士・笈川幸司
アフターコロナ世界が広がる中国にはゴミが落ちていない
ヤフーコメントを見ていると、中国で働いている日本人、中国と良い関係に見える日本人は、中国政府に利用されていると決めつけている人が一定数いて、その人たちの意見がコメント欄の人気上位を占めているように感じる。実際どうなのか、私にもわからないが、少なくとも決めつけはマズいと思うし、その決めつけのせいで、日本人の中には、大事なことを知るタイミングを、ことごとく逃してきた人が少なくないと思っている。
日本でガラケーを持つことにこだわりを持つ人たちがいた頃、中国では、スマホがすごい勢いで広がりを見せていた。貧乏学生をサポートするスマホ会社も登場し、七、八年前には14億総スマホの時代が到来したように思った。実は、20年前から高級ブランドの携帯電話がかなり売れていたようなので、その頃からすでに14億総スマホの時代の土台ができていたのだと思う。
「中国人は見栄を張りたいけど高い車は買えない。でも、1000ドルくらいの携帯電話なら買える」
これは、20年前、北京に住む友人の言葉。
20年前の北京が特別だったのか、それとも他の都市でもそうだったのかはわからないが、当時からそう話す人が多く、その考えを否定する人もいなかった。
その後、北京オリンピック、東日本大震災を経て、状況が激変したように思う。以前は、テレビ番組で障害者をからかうような冗談をいう漫才師がいた。北京パラリンピックで、中国が金メダルラッシュだったとき、「すごいね」と声をかけると、学生の中には「興味がない」「恥ずかしい」という者もいた。東日本大震災では、中国メディアが「日本人の素晴らしさ」を報道したからか、「日本人は中国人とは民度が違う」と話す人たち(中国人)がいた。爆買いブームだった頃、「中国人観光客の声が大きい」「ゴミのポイ捨てをする人がいる」「道で子供におしっこをさせる親がいる」など、日本のメディアも多くの日本人も中国人の民度が低いことに注目していたようだ。あるいは、中国に対して相変わらず無関心だったのかもしれない。
経済成長が著しく、中国の人々の生活スタイルが変わり、五年前からは「日本より便利」「日本より快適」「日本より進んでいる」ものがいくつも出てきたが、日本では、相変わらず中国人の民度の低さについて論じられることが多かったように思う。
きっとどの国でも同じだろう。ひとつ上の世代に反発したい、あるいは親世代に反発したい若者がいる。いや、大抵そうなのだろう。海外や国内の観光地で、「中国人観光客の声が大きい」「ゴミのポイ捨てをする人がいる」「道で子供におしっこをさせる親がいる」ことを不快に思ったのは日本人だけではない。中国の若者も同じように考えていた。
今の中国の若者たちは、子供の頃からルールを厳しく守ることを学んできた。昔は赤信号でも横断歩道を渡る人がいたが、今の若者はちょっとでも許さない。そんな若者の価値観を大人に徹底的に「分からせる」きっかけになったのはコロナだ。
武漢封鎖がネットニュースを駆け巡った日のウィーチャット・モーメンツを見ると、マスクをしないで出かける親を見て嘆く大学生の声が圧倒的に多かった。数日後、意識が変わった親世代の様子も見て取れた。
ヤフーコメントを見ると、「中国政府の強い圧力がコロナをコントロールした」という意見が見られ、もしかしたらそう信じる日本人も少なくないかもしれない。しかし、武漢封鎖の後、すぐに春節に入ったが、政府が人民に外出制限をかける前から街に人がいなかった。日本のメディアは表面的にキラキラ輝く中国政府の大胆な政策を報道したいのだろうが、本当にコロナをコントロールしたのは、子供の頃からルールを守ることの大切さを学んできた若者たちだ。若者たちが大人に「分からせた」からこそ、コロナをコントロールできたのだと言いたい。
私は武漢から遠く離れた中国沿海部・浙江省に住んでいるが、コロナ期間中、二、三ヶ月は家から出なかった。その後、街に出ることができるようになったが、ふと道を見渡すと、ゴミが落ちていないことに気づく。アフターコロナ世界が広がる中国で、私は浙江省以外に上海、北京、成都、鄭州、洛陽にしか行っていないので、全ての都市がそうであるとは言わないが、少なくとも訪問した5つの都市の道にゴミが落ちていなかった。観光地へも行った。中国三大石窟の一つ龍門石窟と少林寺では、列に並んでいるところへ横入りをする人はいなかった。ゴミも落ちていなかった。10年前、もちろん当時から横入りする若者はいなかったが、横入りをする大人はいた。今回、大声を出す大人はたまたまいたが、普段そういう人を見かけることはほとんどない。
これ以上話すと、「お前はまた中国の味方か!」と言われるだろう。それは別に構わないが、言われのない誹謗中傷を受けると家族もいるのであまり言いたくはないが、最後に、中国の若者たちは、コロナなどお構いなしで街に繰り出す日本の若者(珍しいからメディアが報じているだけで、実際はほとんどいないと思うが)とは違うということを伝えておきたい。
著者プロフィール
- 笈川幸司
1970年埼玉県所沢市生まれ。中国滞在20年目。北京大学・清華大学両校で10年間教鞭をとった後、中国110都市396校で「日本語学習方法」をテーマに講演会を行う(日本語講演マラソン)。現在は浙江省杭州に住み、日本で就職を希望する世界中の大学生や日本語スキル向上を目指す日本語教師向けにオンライン授業を行っている。目指すは「桃李満天下」。