アサドを倒した「シャーム解放機構(HTS)」は「過激派」なのか、それとも「穏健派」なのか?
TO SEIZE A CHANCE FOR PEACE
12月8日の首都制圧後にモスクで演説するHTSのモハマド・ジャウラニ指導者 BALKIS PRESSーABACAーREUTERS
<2013年に取材した前身組織からは、国際社会との対話を望む姿勢が垣間見えたが...>
シリアでバシャル・アサド大統領の独裁政権が崩壊し、13年に及ぶ苦難の内戦に終わりが訪れるかもしれない。
最も楽観的な見方をするなら、平和のチャンス到来だろう。慎重に見るなら、2011年のカダフィ政権打倒後のリビアのように、混乱と暴力が延々続く事態が想定される。
次に何が起こるかは、シリア国内と同様に国外の勢力次第だ。筆者は13年にシリアに滞在し、今回アサド政権を打倒したシャーム解放機構(HTS)を後に構成することになるいくつかの組織に取材した。
話を聞くうち、彼らは国際社会が彼らと関わろうとするなら、きちんと耳を傾ける姿勢があることが分かった。
■【動画】西側メディアの取材を受けるHTSのモハマド・ジャウラニ指導者 を見る
HTSは17年に、元アルカイダ系の「シリア征服戦線(旧アルヌスラ戦線)」を含むシリア北西部のイスラム主義武装勢力の連合体として結成された。その後、HTSは北部イドリブの片隅に追いやられていた。
それでも、ロシアの軍用機とレバノンのイスラム主義組織ヒズボラの戦闘員の支援を得たアサド政権の攻撃で他の多くの武装組織が弱体化するなか、彼らは持ちこたえていた。
分岐点を迎えたシリアの今後は、さまざまな道筋が考えられる。HTSのルーツがイスラム主義勢力である点に注目する人もいる。その視点に立つなら世界にとって悪夢のシナリオが実現する──シリアでイスラム過激派が権力を握るのだ。
その一方で、彼らは既に過激なルーツから脱却したという主張もある。
アルヌスラ戦線は国際的な悪評を嫌って16年にアルカイダと袂を分かち、シリア征服戦線と改称。後にHTSとなった。最近はさらに穏健路線を進めようと、宗教的な寛容すら奨励している。その主張が信頼に足るなら、平和で安定した国家の構築を目指すかもしれない。
トランプ政権の対応は不透明
筆者はさまざまな反政府勢力に話を聞いたが、彼らは皆、国際社会から無視されていると感じているようだった。(当時はアメリカが支援していた)自由シリア軍(FSA)のある将軍は、国際支援なしには国際人道法に従うのは困難だとこぼした。
平和的協力を望むという武装勢力の主張をうのみにするのは間違いだろう。だが同時に、完全に無視していても戦争終結にはつながらない。
イランとロシアの介入が失敗したことを喜ぶ向きも多いが、彼らのシリアに対する影響がやむとは考えにくい。一方、かねてからHTSを支援してきたトルコは、影響力を及ぼす強い立場にあるようだ。
米トランプ次期政権がシリアにどう関与するかはまだ不明だ。軍事的な積極関与は考えにくいが、HTSと手を組む事態も想像し難い。
イスラエルはゴラン高原のシリア支配地域にある非武装緩衝地帯を一時的に掌握した。これがゴラン高原での紛争激化につながるのではないかと、一部で危惧されている。
今後の展開はシリアと中東に大きな影響を及ぼし得る。その中心にいるのがHTSだ。HTSは権力を維持できるのか、できたとしてもどんな政権を築くのか、いまだ不透明だ。
この正念場において、中東および世界の大国の対応がカギとなる。平和というチャンスを逃さないためには、HTSとの関与は避けられない。
William Plowright, Assistant Professor in International Security, Durham University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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