世界に波及するガザ情勢、問われる国家と人間の品格
ガザ地区で苦境のただなかにいるパレスチナ人との連帯を示す人々(11月18日、アイルランド・ダブリン) Clodagh Kilcoyne-REUTERS
<凄惨なガザの状況をめぐって揺れる世界では、至る所で国家と市民の品格がぶつかり合っている>
イスラエル軍のガザへの虐殺同様の攻撃と、揺れ動く世界の反応を見て、私は数年前にベストセラーとなった『国家の品格』(新潮新書)を思い出した。
著者の藤原正彦氏によれば、日本の国家としての品格は「情緒」と「形」によって成り立っているという。
日本に限らず、情緒と形は国家の品格を考える際に重要な構成要素となる。ここでいう情緒とは「懐かしさ」とか「もののあわれ」など、その国の人々の精神や感情などを指すものとなる。また形とは、精神や価値観を形にするもの、例えば「日本の武士道精神からくる行動基準」はその一つとなる。
イスラエルがガザ攻撃で見せている「自国を守るためならパレスチナ人を全員殺していい」とでもいうような論理と、一部でそれが黙認されてしまう今の世界は、まさしく「国家の品格」ならぬ「人間社会の品格」が揺れている状況のように思えてならない。
藤原氏によれば、人間にとって最も重要なことの多くは論理的に説明できないという。イスラエルのガザ地区への攻撃では、論理的にいうなら、「2万人以上の丸腰の市民や8000人の子供、女性を殺してはならない理由」も「民間人や子供でさえ殺していい理由」もいくつでも挙げることができる。
今、国家も人間も品格が問われている。
ハマスを「テロリスト」と呼ばないBBC
ハマスの奇襲作戦「アル・アクサの洪水」はイスラエルに未曾有のパニックをもたらした。イスラエルのガザ地区への報復爆撃もエスカレートし、地上侵攻も始まった。
欧米の多くの政府がハマスを「テロリスト」と非難する中、イギリスの公共放送BBCはこの表現を使わず、政府や市民から批判や抗議の声が上がっている。(BBCでは代わりに「戦闘員」という言葉が使用されている)
その理由について、BBCは長年の姿勢として次のように説明している。
「テロリズムは、重大な政治的色合いを伴う難しく感情的なテーマで、価値判断を伴う言葉の使用には注意が必要だ。出所を明示せず、テロリストという用語を使うべきではない」
「『テロリスト』という言葉は、理解の助けよりも妨げになる可能性がある。われわれは何が起きたのか説明することで、視聴者に全貌を伝えるべきだ。他者の言葉をわれわれ自身の言葉として採用すべきではない。われわれの責任は客観性を保ち、誰が誰に対して何をしているのかを視聴者が自ら判断できるように報道することだ」
日本のメディアや記者はBBCのこの判断をどのように見ているのだろうか。偶然ではあるが、これは数週間前に当方が訴えた考えに近いものだ。