最新記事
アルカイダ

アルカイダの手紙、9.11を知らないZ世代の共感を得る...SNSで拡散中の理由とは?

TikTok and Al Qaeda

2023年11月27日(月)18時10分
サジャン・ゴヘル(アジア太平洋財団ディレクター)

9.11テロ後に生まれたZ世代のアメリカ人の多くにとって、ビンラディンは遠い歴史上の人物だ。この世代は、あの悲劇の一日を同時代に経験していないために、アルカイダに都合のいい歴史解釈を受け入れやすいのだろう。Z世代のネット利用時間が長く、既存メディアへの不信感が強いことの影響もありそうだ。

加えて、「アメリカへの手紙」は、アルカイダの憎悪に満ちた暴力的イデオロギーにあまり光を当てていない。

この書簡の表面だけ読めば、ビンラディンとアルカイダは、弱者の代弁者として植民地主義に異を唱え、中東地域を牛耳る欧米の資本主義支配と戦っているように思えるだろう。アルカイダの思想について深い知識を持たない若者が、書簡に盛り込まれた主張に共感を抱いても不思議でない。

一方、分派として生まれた過激派組織「イスラム国」(IS)は、イデオロギー上の共通点は多いのに、Z世代にあまり支持されていない。主な理由は、ISによる欧米でのテロや中東での残酷な処刑の映像を、Z世代もリアルタイムで目撃しているからだ。

さらにアメリカの多くのZ世代は、9.11テロが欧米で生み出した反射的な愛国心やナショナリズムに疑念を抱いている。03年の悲惨なイラク戦争は実際にはアルカイダや9.11テロと関係なかったが、当時は残虐なテロに対する正当な対応と喧伝されたことも、彼らの疑念を強めた。

パレスチナ軽視だった

最近も10月7日のイスラエルに対するイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を「脱植民地化」に必要な「苦い現実」と見なす言説がネット上で人気を集めた。アルカイダのような凶悪なテロ組織の文章が都合よく切り取られ、ネットの片隅で正当な抵抗の言葉として再評価される背景には、このような現実認識がある。

ネット空間には、ビンラディンは貧しい家庭で育ち、米軍の占領に苦しんだ個人的体験があるという誤った思い込みもある。実際にはビンラディンもその片腕で後継者のアイマン・アル・ザワヒリも、裕福なエリート家庭の出身だ。

インタビュー
現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ「日本のお笑い」に挑むのか?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国首相「関税が世界の経済活動に深刻な影響」、保護

ビジネス

アングル:債券投資家が中期ゾーン主体にポジション修

ワールド

アングル:FRB次期議長、インフレと利下げ要求の板

ワールド

リトアニアが緊急事態宣言、ベラルーシの気球密輸が安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中