最新記事
中朝関係

中国の露骨な「国際条約違反」を許すな...脱北者への「非人道的」な仕打ちの実態と、国連の責任

Don’t Send Them Back

2023年7月11日(火)20時04分
ロバータ・コーエン(北朝鮮人権委員会・名誉共同代表)
脱北者の強制送還に反対するデモ

北朝鮮に戻れば拷問や性暴力、死刑を覚悟しなければならない。ソウルの中国大使館前で脱北者の強制送還中止を求めるデモ参加者(2012年3月) KIM HONG-JIーREUTERS

<中国当局が不法滞在などで拘束した北朝鮮出身者たち。本国で彼らを待ち受けているのは残虐な迫害と死だ>

中国の出入国管理当局は最大2000人の北朝鮮人を収容している。許可なく北朝鮮を出国した人や不法滞在者などだが、彼らは近々本国に強制送還されることになりそうだ。コロナ禍で鎖国状態になっていた北朝鮮が中国との国境を再開し始めたからだ。

本国で彼らを待ち受けているのは残虐極まりない処遇だ。国連調査委員会(COI)の2014年の報告書には組織的なリンチや拷問、拘禁、強制労働などの証拠が多数挙げられている。なかでも中国経由で韓国行きを目指した脱北者は死刑に処せられかねない。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の20年の報告書によると、送還された脱北女性が性暴力に遭うケースも少なくない。

COIの報告書は、中国にいる脱北者は送還されれば迫害される危険性があるため、出国時には難民でなくとも滞在先で保護の必要性が生じた「後発的事由による難民」に該当する、と結論付けている。

中国政府に脱北者の本国送還の中止を求める声が高まるなか、注目されるのはアントニオ・グテレス国連事務総長の動きだ。アメリカでは「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)」がこの問題に関する公聴会を開き、その場で同委員会のクリス・スミス委員長がグテレスにこう呼びかけた。

「あなたの影響力を最大限活用して、(脱北者の)強制送還を中止するよう中国政府を説得してほしい」

国際条約違反を許すな

具体的にグテレスには何ができるか。まず、この問題に対する国際社会の関心を高めること。グテレスの報道官は6月13日の定例記者会見で事務総長の立場を説明し、「難民条約の尊重を支持し、ルフールマン(迫害の危険性がある国に難民を送還すること)に断固反対する」と述べた。

グテレス自身がそう宣言し、中国にいる脱北者を守る姿勢を示せば、はるかに大きな反響を呼ぶはずだ。

中国は難民条約に加入している。この条約には生命や自由が脅かされる危険性がある国に難民を送還してはならないと定めた「ノン・ルフールマン原則」がある。中国は拷問等禁止条約を批准してもいる。この条約もまた、何ぴとであれ「拷問が行われる恐れがある」国に追放・送還してはならないと定めている。

明らかに中国はこの2つの条約の締約国としての義務を肝に銘じる必要があり、グテレスは立場上それを求めることができる。彼は国連難民高等弁務官を務めていた06年に中国を訪れ、脱北者を強制送還しないよう求めたことがある。13年に韓国を訪れた際には、中国にいる脱北者が本国に送還された場合、「身の安全と基本的な人権が守られるのか、われわれは深刻な懸念を抱いている」と述べもした。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中