サイバー空間では、台湾「有事」はすでに始まっていた...日本にも喫緊の課題、「OT」のリスクとは?
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<サイバー空間では台湾「有事」はすでに始まっている? 中国スパイ工作の実態と、台湾「防衛戦」の実態を現地取材>
2023年5月、中国の政府系サイバー攻撃グループが、米セキュリティソリューション企業バラクーダネットワークス社の提供する電子メールセキュリティ対策ソリューションにハッキングで侵入していたことが明らかになった。世界各地でこのシステムを導入していた数百に上る官民組織が被害に遭い、そのうちの3分の1は政府機関だったという。
また中国政府系ハッカーらは最近、ケニア政府へのハッキング攻撃で政府予算がらみの機密情報を盗もうとしていたことが明らかになっている。こうしたケースをはじめ、中国政府系ハッカーは世界中で幅広く情報窃取などスパイ工作を繰り広げていることがわかる。
こうした情報窃取のためのサイバースパイ工作は大きな問題だが、それよりも深刻だと言えるのは、国家の重要インフラなどへのサイバー攻撃である。ビジネスや社会生活を妨害して混乱を引き起こすサイバー攻撃や、代替のきかないインフラ施設などへのランサムウェア(身代金要求型ウイルス)攻撃などは、国家を根幹から揺るがす危険性がある。
近年、世界的にインフラ施設などを狙ったサイバー攻撃への危機感が高まっている。対策が議論されてもいるが、中国政府系サイバー攻撃者などによる産業制御システムやインフラを狙ったサイバー工作は増加しつつある。
米領グアムでは2023年5月、「Volt Typhoon(ボルト・タイフーン)」と呼ばれる中国政府系サイバー攻撃グループが、同島の通信インフラに対してサイバー攻撃を行っていたことが判明している。このケースでは米軍基地のインフラも狙われておりセキュリティ関係者の間で大きな話題になった。その背景には、米中対立もあると見ていい。
中国からサイバー攻撃を受け続けてきた台湾
このような表面化している大規模なケースはアメリカが標的になっているケースが多いが、実はアメリカ以外にもこうした攻撃に警戒心を強めている国がある。台湾だ。
近年、中国共産党の強権化にともなって台湾有事の可能性が高まっていると指摘する声は多い。台湾では現在の民進党政権が反中国の姿勢を鮮明にし、中国側も習近平国家主席が武力による台湾統一にも言及している。そんなことから、台湾寄りのアメリカなど欧米諸国も巻き込んで緊張関係が続いている。
そんな情勢の中で、台湾はこれまでも中国からサイバー攻撃を受け続けてきた。2020年に台湾を襲ったサイバー攻撃を分析すると、台湾の政府系機関に対する攻撃は28.4%だったのに対して、製造業やインフラ関連への攻撃は46%に達している。その中でも特に目立つのは、半導体などハイテク産業を含む製造業で、29.3%を占めている。