最新記事

宇宙開発

ソニーの小型衛星、水蒸気による初の推進システムを搭載

2023年3月1日(水)16時44分
青葉やまと

水蒸気による初の推進システムを搭載 (Image credit: Sony)

<安全かつ安価な水を使い推進力を得る、初のシステムが宇宙へ飛び立った>

ソニーの小型衛星「アイ(EYE)」が、スペースXのファルコン9ロケットによって1月に打ち上げられた。アイは水蒸気による初の推進システムを搭載している。このシステムが衛星の高高度への移行に用いられるとアナウンスされており、成否の発表が待たれる。

推進システムは水レジストエンジンと呼ばれ、噴射剤として一般に用いられるガスなどに代わり、水を噴射することで軌道を維持する。機体に搭載した液体の水を水蒸気にし、高速で噴射した反動で推力を得るしくみだ。

米技術解説誌のインタレスティング・エンジニアリングは、「水を用いた初の推進テクノロジー」だと報じている。

宇宙ポータルサイトのSpace.comはペールブルーによる情報をもとに、水レジストエンジンによって小型衛星のアイが軌道を適切に維持することが可能となり、衛星の寿命を2年半ほど引き延ばす結果につながると報じている。

キューブサット(小型衛星)の需要がますます高まるなか、有毒な燃料を含む噴射剤よりも安全性が高く、低価格かつ環境負荷が少ない手法として注目されている。

日本のベンチャーが開発、「業界一安価」な推進剤コストを実現

水レジストエンジンを開発したのは、東大発のベンチャー企業「ペールブルー」だ。同社は小型衛星での使用を前提に、水による推進システムを中心とした開発を手がける。同社は2020年4月に設立された。

アイに搭載されたのは水蒸気式ミニと呼ばれるタイプのもので、9センチ x 9.5センチ x 5センチというコンパクトなサイズが特徴だ。このほか、体積を約2倍にしてより推進力を高めた通常の水蒸気式、より燃費を抑えた水プラズマ式、そしてこれらを併用する水統合式が開発されている。

同社のウェブサイトによると、複数のエンジンを組み合わせるクラスタリングの手法により、最大16mN(ミリニュートン)の推力を得ることが可能となる。参考として、「はやぶさ2」に搭載のイオンエンジンは1基あたり10mNを生じる。

同社によると、30秒の加熱で使用できる即応性は「業界平均の10倍高速」であり、1kgあたり1ドルという推進剤の調達コストは「業界一」安価だとしている。推進剤のキセノンと比較した場合、1000分の1のコストだという。

ファルコン9で打ち上げ後、軌道投入に成功

アイは1月3日、スペースXが実施した衛星ライドシェア・ミッション「トランスポーター6」によって打ち上げられた。このミッションでは同社の2段式商用ロケット「ファルコン9」を用い、114基の衛星を一度に打ち上げている。

アイはキューブサットと呼ばれる小型衛星で、6単位分の体積を持つ「6U」と呼ばれるサイズに相当する。ソニーグループはプレスリリースを通じ、打ち上げと同日に高度524キロの軌道へ投入されたと発表している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、メンフィスで法執行強化 次はシカゴと表

ワールド

イスラエルのカタール攻撃、事前に知らされず=トラン

ワールド

イスラエル軍、ガザ市占領へ地上攻撃開始=アクシオス

ワールド

米国務長官、エルサレムの遺跡公園を訪問 イスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中