最新記事

中国経済

政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が、根本的に分かっていないこと

CHINA’S PRO-GROWTH HAPPY TALK

2023年2月15日(水)18時50分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)
中国の習近平国家主席

毛沢東思想に傾倒する習近平が経済成長を取り戻せるか THOMAS PETERーREUTERS

<ゼロコロナ政策から抜け出した中国が、本当に経済を成長路線に乗せるために必要なのは威勢のいい掛け声ではない>

中国政府の「経済成長」愛に再び火がついた。ゼロコロナ政策の長い闇から強引に、少なくとも数万の命を犠牲にして抜け出した今、あの国の指導者たちは異口同音に、いざ力強い経済を取り戻すぞと叫び始めた。だが号令だけでは何も変わらない。

昨年末に開かれた共産党の中央経済工作会議で、今年は経済成長を政府の最優先課題とすると定められた。こうした党中央の固い決意を受け、地方の党幹部や首長らも同じ言葉を繰り返し、民間の投資家や実業家らの期待をあおっている。コロナの時代には見られなかった光景だ。

こうした変化の政治的動機は明らかだ。国民が苛酷なゼロコロナ政策への不満を爆発させ、その廃止に伴う混乱にも失望している今は、一刻も早く党に対する信頼と支持を回復したい。だが成長賛歌の合唱だけでは不十分。大事なのは行動だ。

停滞する不動産業界へのテコ入れなど、小手先の対策では足りない。金融緩和やインフラ投資の拡大などの景気刺激策も、せいぜい短期の効果しかあるまい。

ゼロコロナ政策は中国経済に深い傷痕を残した。それ以前には中小零細企業が4400万社もあった。登記された民間企業の約98%を占め、国内の雇用(公務員を除く)の8割前後を支えていた。ほかに、自営業者も9000万人以上いた。

中国が再び経済成長するのに不可欠なもの

だがゼロコロナ政策で事情は一変した。ロックダウン中も中小零細業者への資金援助はなかったから、多くが廃業に追い込まれた。

そこへ、地政学的な圧力が成長の阻害要因としてのしかかる。アメリカは中国が半導体を入手できないよう、これまで以上に力を入れている。オランダ企業ASMLが半導体製造装置を中国に売らないよう、同国政府に圧力をかけてもいる。米議会の下院で多数派となった共和党が、新たな経済制裁を打ち出す可能性もある。

ウクライナでの戦争に関して、今も中国はロシアを非難していない。当然、EUは腹を立てており、アメリカと同様に経済的なデカップリング(切り離し)を急ぐべきだとの声も上がっている。こんな政治的緊張が続く限り、経済の先は見えない。投資意欲は冷え、外国企業の撤退で製造業の雇用は確実に減っていく。

つまり、中国経済を再び成長軌道に乗せるには欧米諸国との関係改善が不可欠だ。しかし現時点で、米中関係は修復不能なほどに冷え込んでいる。どうすればいいか。プーチン政権下のロシアに対する支持を取り下げるのもいい。台湾に対する軍事的な威嚇をトーンダウンするのもいい。それだけでも投資家の心理は変わるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中