最新記事

動物

解体すると肉片、骨、衣類などが団子状に...... 中年男をえじきにする「巨大ヒグマ連続食害事件」とは

2023年2月8日(水)18時55分
中山茂大(ノンフィクション作家・人力社代表) *PRESIDENT Onlineからの転載

闇の中に耳を澄ますと、惨忍な咀嚼音が......

静江は、長男一二三と夫豊次郎の絶叫を聞いて肝を潰し、カンテラに火をつけ戸外に駆け出した。

すると夫は無残にも大熊に組み敷かれている。

「アッ」と悲鳴を上げた静江に大熊が襲いかかる。自宅へ引き返す間もなく背中に噛み付かれ、頭部、腹部、臀部(でんぶ)など13カ所に重傷を受けた。

近隣の佐々木家でも男女の悲鳴を聞き付けていた。はじめは熊澤家の夫婦喧嘩だろうと思ったが、夫婦で駆け付けると、静江が大熊の一撃で最期を遂げようとしており、「ワッ」と驚いて命からがら熊澤家に飛び込んだ。

静江は付近の黍(きび)畑に這(は)い込んだが、大熊は豊次郎の死体を喰らい始めた様子で、闇の中に耳を澄ますと、惨忍な咀嚼音が聞こえた。

胸から下が全部喰い尽くされ、見るも無残な有様......

夜明け頃、大熊が立ち去った後になって外を覗うと、豊次郎は胸から下が全部喰い尽くされ、見るも無残な有様だった。

長男一二三も約10間ほど離れたところで紅血に染まって死亡していた。

佐々木夫婦は直ちに警察署役場病院に急報し、時を移さずに村民等280余名が参集した。

この時多くの村人が、酸鼻(さんび)を極める事件現場を目の当たりにした。安西は事件当時4歳であったが、この時の様子を鮮明に覚えているという。

「朝方集まって見た時には、散乱した死体の残骸が昨夜来の雨で洗われ白茶けて見えるのも本当に哀れで、そのむごたらしさには誰もが声が出なかったという」

ただちに熊狩りが行われ、約100間先の楢林に大熊が潜伏しているのを発見し、見事に射殺した。身長7尺余(約2.1メートル)、体重140貫目(525キロ)という巨大なヒグマであった。

地元郷土史研究会会員、玉置要一の遺稿には、仕留められたヒグマの様子が詳述されている。

「倒した熊を土橇に積み、集まった人々の手によって河原まで運び出し、皮を剝ぎ解体した胃袋を開くと、中から熊沢さんのものと思われる肉片、骨、衣類、ソバなどが団子状となって出てきた」(『アイペップト 第2集』愛別町郷土史研究会)

もう1つの事件「和寒川事件」

2つの事件で計7名が喰い殺されたわけだが、事件はこれだけでは終わらない。

「朝日村事件」のわずか2カ月前にあたる、大正元年8月28日。

上川郡剣淵村の中野信明(44)が、長男勝男(14)と魚釣りに出かけた。

和寒川上流の河岸でミミズを掘っていると、大熊が現れ、2人は夢中で逃げ出した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中