もはや西側の政策もプーチン自身も、ロシアの崩壊を止められない理由
AFTER THE FALL
そうした要因はほかにもある。行きすぎた権力集中体制のもろさと無能さ。敗北や病や加齢に伴う個人崇拝の破綻。ずさんな石油価格政策。社会の隅々にまで蔓延する腐敗。世界最後の旧態依然とした帝国における大きな民族的・地域的亀裂。
ロシア崩壊は誰も望んでいないかもしれないが、政治的・経済的・社会的混乱が拡大し、連邦を構成する各共和国が独立を模索するシナリオは想像に難くない。
現在は一触即発の状態なのかもしれない。ウクライナ戦争の失敗がプーチンとロシアの脆弱さを露呈し、それが崩壊寸前のロシアの体制の骨組みに飛び火する可能性は大いにある。
何が引き金になるかは予想できず、ロシアが現在の体制のまま危機を乗り切る可能性はあるが、その場合も国家は大幅に弱体化し、構造的緊張は続くはずだ。
プーチンはロシア崩壊の可能性も考えているのか、1月の新年の国民向け演説でウクライナ戦争がロシアの独立性を脅かす可能性に初めて言及した。
しかし現実にロシアが崩壊した場合、その結果は不安定で暴力的なものになるのだろうか。
ジョージ・ワシントン大学ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究所のマルレーヌ・ラリュエル所長によれば答えはイエス。「崩壊は複数の内戦を生む」「新たに誕生した小国同士が国境と経済資産をめぐって争う」一方、ロシア政府の支配層は「いかなる分離主義にも暴力で応じる」ためだという。
ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官も「ロシア連邦が崩壊もしくは戦略的政策を実行できなくなれば、11の時間帯にまたがる領土はさまざまな勢力が権力争いを繰り広げるリーダーシップの空白に陥りかねない」と指摘。
領内の勢力は暴力的な方法で紛争を解決しようとし、諸外国は力ずくで領土拡大を図る可能性があり「大量の核兵器の存在がこれらの危険性に拍車をかけるだろう」と警告した。
近隣国の安定が「防疫線」に
ただしどちらも最悪のシナリオであり、歴史上、帝国の崩壊は近隣国や世界にとっては必ずしも悪いことばかりではない。
例えばナポレオン失脚後のヨーロッパは比較的平和で、オーストリア・ハンガリー帝国の場合も崩壊直後はポーランドとウクライナの領有権争いなどはあったものの数年で安定。ソ連崩壊後でさえ驚くほど平和だった。
恐らく、独立した元共和国と新たに誕生したヨーロッパの衛星国で国境が画定し、行政が機能し、支配層が国家建設に着手できる状態だったからだろう。