最新記事

宇宙

「火星まで45日で到達!」「宇宙探査に革命!」原子力ロケットエンジン推進される

2023年1月26日(木)18時53分
松岡由希子

原子力ロケットで火星有人探査が現実化するか...... NASA

<NASAは、将来の火星有人探査に向けて、原子力ロケットのエンジンの開発を目指す計画を発表した......>

NASA(アメリカ航空宇宙局)は、将来の火星有人探査に向けて、原子力ロケットのエンジンの開発を目指している。2023年1月24日には、国防高等研究計画局(DARPA)と連携し、核熱推進(NTP)ロケットエンジンの実証実験を早ければ2027年にも行う計画を明らかにした。

>>■■【画像】人間を火星へ到達させるロケットのイメージ

核熱推進技術の研究で長い歴史がある

原子力ロケットは火星への飛行時間を短縮できるのが利点だ。長期にわたる宇宙放射線の被曝や微小重力環境下での生活などに伴う宇宙飛行士の健康リスクを低減できる。また、食料などの必要物資を軽減でき、実験装置などをより多く積み込むことも可能となる。

核熱推進は、太陽系での有人ミッションに適したロケット推進技術とされている。原子炉を利用して液体促進剤を加熱膨張させ、プラズマに変換し、ノズルから噴出させて推力を発生させる仕組みだ。

NASAには、核熱推進技術の研究で長い歴史がある。1950年代からすすめられたアメリカ原子力委員会(AEC)との共同プログラム「NERVA」では、1969年に核熱ロケットエンジンの実験に成功したものの、飛行試験が実現しないまま、1973年に中止された。

>>■■【画像】核熱ロケットエンジンの実験を行なっていた 1964年

核熱推進と原子力電気推進を組み合わせる

NASAは、初期段階の研究を対象とした助成プログラム「NIAC」の2023年度の助成先として、核熱推進と原子力電気推進(NEP)を組み合わせた米フロリダ大学ライアン・ゴス教授のコンセプトを選出している。

原子力電気推進は、NASAが核熱推進とともに注目している原子力ロケットの推進方法だ。原子炉で発電し、キセノンやクリプトンといった気体の促進剤を正に帯電させ、スラスターでイオンを押し出して、推力を生じさせる。1万秒超の非常に高い比推力を実現できるが、推力は小さい。

「太陽系の深宇宙探査に革命をもたらす」

ゴス教授が提案するコンセプトでは、「NERVA」の技術をベースとした最新の核熱推進で、化学ロケットの2倍の900秒の比推力(Isp)を実現できるとしている。また、原子炉での液体水素燃料の加熱で生じる圧力を用いて反応産物を圧縮する「ウェーブローター(WR)」を搭載すれば、核熱推進と同等の推力を担保したうえで、比推力が1400~2000秒となる。さらに、これと原子力電気推進を組み合わせることで、比推力を1800~4000秒まで高められる可能性がある。

ゴス教授は、このコンセプトについて「有人ミッションの高速輸送を可能とし、火星まで45日で到達できる」とし、「太陽系の深宇宙探査に革命をもたらす」と述べている。

>>■■【画像】人間を火星へ到達させるロケットのイメージ

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中