最新記事

ウクライナ

ウクライナ防衛で3Dプリンターが活躍 止血帯から武器までガレージで生産

2022年4月22日(金)15時23分
青葉やまと

プロジェクトは、すでに3Dプリントの豊富な経験をもつウクライナ各地の3D機器取扱店に協力を呼びかけ、ウクライナ全土で分散して止血帯を製造できる体制を目指している。

ただし、医療器具の製造となれば慎重性も求められる。Gilaプロジェクトのタレク・ロウバニ医師は、記事投稿サイト『メディウム』において、未経験者による製造は控えるよう促している。「これまでに医療機器を制作した経験がないのなら、仮に動作不良となれば誰かが命を落とす可能性すらある救命器具は、おそらく最初に挑戦すべきものではないだろう。」

海外から支援の手 プリンター満載の車両が駆けつける

物資不足を解消しようと、海外から支援に駆けつける企業も現れている。ウクライナの隣国・ポーランドからは、3Dプリント企業のシグニス社がウクライナ国内からの支援要請に応じた。20台の3Dプリンターに加え、材料となる樹脂を大型車両に満載して届けた。

製品の輸送を担ったドライバーは、国境での3日間の足止めに耐え、ウクライナ西部のリヴィウまで物資を届けたという。同社のアンジェイ・バーグスCEOは、「ロシアからウクライナを守ることは、明らかに私たちの共通の利益です」と語っている。

あらゆる物資が不足する戦時下において、3Dプリンターは有用な製造手段となり得る。米フォーブス誌は、「多くの3Dプリンターは比較的小型であり、地下のシェルターにも設置できることから、戦時の生産に適している」と解説する。

3Dプリンターは単独の製品に特化した工場と異なり、柔軟かつ迅速に、ニーズに応じて1点から出力することが可能だ。こうした特性から同誌は、「必要な物資を輸送する物流の悪夢を軽減」し、戦禍では「大いに有用である」と評価している。

デジタル技術による「最も効果的なイノベーション」

3Dプリントを攻撃に用いる手法も考案されている。ソ連時代から使われている対戦車手榴弾の後部に3D製の羽根を追加することで、ドローンからの安定した投下が可能となった。戦車は側方からの砲撃に耐えられるよう頑丈な装甲を備えるが、上部からの攻撃には比較的弱い。

既存の兵器に3Dプリントで手を加えることで、防戦の効果をより高められることになる。英『i』紙は、「最も効果的な部類のイノベーションが、民間のデジタル技術と従来の攻撃方法とのはざまで生まれている」と報じている。

物量でこそロシアに劣るウクライナだが、侵攻前から海外IT産業のアウトソースを誘致するなど、先端技術を積極的に受け入れる土壌が育まれてきた。戦禍で物流が限られるなか、3Dプリント技術を活用した柔軟な生産手法が防衛に一役買っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中