最新記事

米社会

快楽は「悪」ではない...性教育は「性的欲求を認める」ことで、より効果的になる

Putting the Sexy in Safe Sex

2022年3月12日(土)10時50分
ハンナ・ドクター・ローブ

研究チームはまず、05~20年に世界各地で行われた性と生殖に関する健康教育プログラムについて、過去の数千件の実験的研究を分析した。その結果、「性の健康世界学会」が19年に提言した「快楽を伴う性的健康の教育」の基準に適合するプログラムはわずか33件だった。

これら33件のうち、プログラムの成果としてコンドームの使用を挙げている8件(ブラジルの公立学校の性教育、アトランタのコミュニティー単位のHIV予防のワークショップなど)を検証。その結果、セックスにおける快楽の役割について教えない介入策と比較して、コンドームの使用に関し、比較的もしくは確実に肯定的な効果がある──つまりセックスをする際に、コンドームを使う傾向が多く見られることが分かった。

今回のメタ分析は、快楽に基づく性教育は性に関する自律性を促すという専門家の長年の主張を裏付ける。ニューヨーク市立大学大学院センターのミシェル・ファインは1988年に、快楽を中心とする性教育は「権利への入り口」であり、自分の性的判断や性的体験をコントロールできるようになると述べている。

「自分の声と考えを持って選択し、コントロールし、イエスと言い、ノーと言い、誰とするかを自分で決められる形で、社会生活のこの領域に関わる方法を思い描く。欲望と向き合わなければ、恐怖や被害者意識しか残らず、非常に脆弱な立場に追いやられる」

安全対策についても話しやすくなる

自分の欲望について安心して話せると思えるようになれば、安全対策についても話しやすくなる。

「自分は何に興味があって、以前に起きたことが好きだったかどうか」を正確に伝えられるように教えることは「快楽とスキルに基づく」介入だと、セックスセラピストのロサラ・トリッシは言う。それを機に、パートナーと「より安全なセックスをするための方法」を話し合えるようになるだろう。

フィルポットたちが分析した介入プログラムは、参加者の年齢、国籍、社会的立場などが異なる。ファインはそのサンプルの多様性から、快楽は性教育にとって広く肯定的な要素であることがよりよく分かると言う。

フィルポットは今回の研究が、快楽に基づく性教育への資金援助につながってほしいと語る。「性の健康や性教育について、より現実的な話ができるだけでなく、より効果的で費用対効果の高い介入にしていくことができる」

そして、「快楽の波」が高まること、すなわち快楽に基づく介入への注目が高まることも期待する。「私たちは長い間、なぜそうしなければならないのかを主張してきたが、これからはエビデンスを踏まえて、次のステージにどのように導いていくかを考えなければならない」

©2022 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中