「すぐ崩壊する」の観測を覆した金正恩の10周年、侮れない実力と「らしさ」

KIM JONG UN’S DECADE

2022年1月27日(木)17時24分
レイチェル・ミニョン・リー(米分析サイト「38ノース」フェロー)

220201P42_KJU_02.jpg

正日の追悼大会で正恩体制が始動(11年12月) KCNAーREUTERS

正恩が就任前に抱いた懸念

正恩が公務デビューを果たした頃、父・正日が(そしておそらく息子の正恩自身が)最も心配していたこと。それは朝鮮人民軍内部での正恩の権力基盤をいかに強化するかだった。父から子への権力継承を円滑に進め、体制の安定を図るにはそれが不可欠だった。

だから正恩は10年の朝鮮労働党第3回代表者会で、軍を指導する中央軍事委員会の副委員長という重要なポストを与えられ、軍部を掌握できる立場になった。

父・正日の死後、正恩は4カ月で軍、党、政府における父の全ての肩書を継承することになるが、真っ先に(父の死からわずか13日後に)受け継いだのは朝鮮人民軍最高司令官の地位だった。

正恩は、国の実権を握ってから2つの難題に直面した。1つ目は、朝鮮労働党の立て直しを図ることだった。当時の労働党は、最高の権力機関とは名ばかりで、実際は何事においても軍を優先するという父・正日肝煎りの「先軍」政治のせいで深刻な機能不全に陥っていた。

結果、これが2つ目の難題なのだが、正恩が引き継いだ朝鮮人民軍は組織として大きくなりすぎ、しかも過大な権力を有するようになっていた。そこで正恩は、直ちに党の復権と軍の「正常化」に乗り出した。

党の機能再建は、実際には父・正日の最晩年に着手されていた。彼が軍を甘やかし、頼りにしていたのは事実だ。しかし息子への権力継承を確かなものにするには、党の後ろ盾が必要なことも理解していた。

だからこそ10年に、実に44年ぶりで党の第3回代表者会を開催した。以後、長く休眠状態だった党のさまざまな会議が復活し、正恩を頂点とした「集団的意思決定」のプロセスが党内で確立された(ただし、いわゆる「集団指導体制」とは違う)。

正恩は政権発足当初から、党大会や党の総会、政治局会議など、党のさまざまな会議を主催して自らの指導力を強化し、党の役割を国家に組み込み、党の権威を回復してきた。

12年4月の第4回代表者会で、党の最高職として新設された第1書記に正恩が就任したのもその例だ。さらに正恩の腹心と見なされていた党中央軍事委員会副委員長で軍総参謀長だった李英鎬(リ・ヨンホ)を解任(12年)し、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)を粛清(13年)したが、いずれも公式には、正恩ではなく党政治局会議の決定とされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中