最新記事

地球温暖化

地元も被害深刻、麻生氏「温暖化でいいこともある」発言が酷すぎる

2021年10月28日(木)11時42分
志葉玲(フリージャーナリスト)
麻生太郎

麻生太郎氏 Kim Kyung-Hoon-REUTERS

「地球温暖化でいいこともある」「北海道の米が美味しくなったのは気温が上がったから」―麻生太郎自民党副総裁は、温暖化(=気候危機)を許容するかのような発言が批判を呼んでいる。温暖化による影響は既に深刻なものとなり、日本でも農作物が高温で品質・収量低下していることを農水省は報告。また、麻生氏の地元を含め、豪雨などの災害も頻発しているのだ。

温暖化容認、生産者の努力をないがしろ

問題の発言は、今月25日、北海道小樽市での街頭演説でのもの。麻生氏は「地球温暖化って悪い話しか書いてませんが、温暖化でいいことがあります」等と発言したのだ。


「北海道はあたたかくなった。平均気温が2度上がったおかげで、北海道のお米は美味しくなった」

「昔は北海道のお米は厄介道米(やっかいどうまい)という程、売れない米だった。今はその北海道がやたら美味い米をつくるようになった。農家のおかげですか?農協の力ですか?違います。温度が上がったからです」

「温暖化が悪い話じゃなくて、ここはいい方に動くことも、農産物に限らず、いろんなものが良くなりつつあるんじゃないの」

*共同通信配信の麻生氏演説動画より

この発言に対し、北海道農民連盟は、今月26日付で声明を発表。「自民党の重要ポストにある副総裁の発言としては有るまじき由々しき事態」「地球温暖化防止対策に取組んでいる企業や国民にとっても耳を疑うような発言」と批判。さらに「全国でも北海道米が高い評価を得ているのは、全道挙げて米の品種改良を重ね、官・民・農が一体となって協力し、"北海道ブランド米"としての地位を確立した結果であり、今までの北海道米を作る生産者の努力と技術を蔑ろにするような発言は断じて許されない、強く抗議する」と憤りをあらわにした。

温暖化による農業被害は既に深刻

農林水産省の報告からも、麻生氏の発言が事実と異なることがわかる。同省の「地球温暖化影響調査レポート」(令和2年)によると、全国の稲作で、デンプンの蓄積が不十分な白未熟粒や虫害の多発等の品質低下・収量低下が高温によって引き起こされているのだという。米以外にも、茶、梨、柿、桃、梅などの果物、ほうれん草やキャベツ、レタスなどの野菜も、高温による品質・収量の低下が起きている。北海道では、夏の猛暑で乳牛が弱り、飼料となる牧草も枯れるなど、畜産業への影響も甚大だ。

麻生氏の地元でも被害深刻

「農産物に限らず、いろんなものが良くなりつつあるんじゃないの」という発言も、異常気象による災害に多くの人々が苦しめられている中、極めて不謹慎だ。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が今年8月に公表した最新報告書は、異常気象が頻発しているとして、既に温暖化の影響が極めて深刻なものであることを強調している。麻生氏の地元、福岡8区でも直方市や飯塚市などが、西日本豪雨(2018年)による河川の氾濫で家屋浸水被害が多数発生。その後も、福岡県では毎年のように豪雨に襲われ、今年8月も、農業や道路などに約218億円の被害が発生しているのだ。

「暴言癖」で済ますな

IPCCの報告によれば、破局的な温暖化による被害を未然に防ぐには、あと10年以内に世界全体の温室効果ガス排出を半減させるなど、国際社会の総力をあげた取り組みが必要とされる。脱炭素化は世界経済のあり方も変えていくもので、逆に言えば、これに乗り遅れるなら、日本の国際競争力は大幅に低下する。自民党の動向に強い影響力を持つ麻生氏の認識の危うさは、日本の今後の危うさでもある。「いつもの麻生氏の暴言癖」ですまされるものではないのだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]
志葉玲
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。オフィシャルウェブサイトはこちら

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙

ビジネス

ECB、ディスインフレ傾向強まれば金融緩和継続を=

ワールド

米中外相がマレーシアで会談、対面での初協議

ワールド

米政府、大規模人員削減加速へ 最高裁の判断受け=関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中