ドイツで3つの宗教の合同礼拝所が着工、平和と対話を促す施設目指す
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界初の合同礼拝所「ハウス・オブ・ワン」の起工式が行われた YouTube-House of One
<5月27日、ベルリンで、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教がひとつ屋根の下に集う世界初の合同礼拝所「ハウス・オブ・ワン」の起工式が行われた>
3つの宗教が平和的に共存する礼拝所
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教がひとつ屋根の下に集う世界初の合同礼拝所「ハウス・オブ・ワン」(ひとつの家)が5月27日、ドイツのベルリンで起工式を行った。2011年に始まったこのプロジェクトは10年のときを経て、着工に漕ぎつけたことになる。
ハウス・オブ・ワンによると、1989年に「言葉の力および非暴力な抵抗の力によって"鉄のカーテン"が崩壊した場所」であるベルリンで、この礼拝所は、各宗教が多様性の価値を認め、平和的に共に過ごす場所となる。これまで「宗教の名の下で行われてきたあらゆる残虐行為とは対照的な、平和的共存のモデル」になるとしている。
施設内には、シナゴーグ、教会、モスクが別々に作られ、中央には共有スペースが設けられる。このスペースは、各宗教の信者や一般の人たちがそれぞれの宗教やお互いについて一緒に学べる空間だ。この3つの宗教以外の信者や、宗教を信じていない人にも開放される。
ハウス・オブ・ワン礼拝所の竣工までに、4年かかると見られている。建築費は合計で4700万ユーロ(約63億円)。そのうちドイツ政府が2000万ユーロ(約27億円)、ベルリン州政府が1000万ユーロ(約13億円)をそれぞれ提供し、個人からの寄付で900万ユーロ(約12億円)が集まった。残りの800万ユーロ(約10億円)は、引き続き寄付を求めていく予定だ。
歴史的な場所に世界初の施設
英ガーディアン紙によると、ハウス・オブ・ワンが建設される場所は、ライプツィガー通りに位置する、聖ペテロ教会の跡地。同教会は13世紀に建てられ、ベルリン最古の教会だったと言われているが、第2次世界大戦で激しく損傷。東ドイツが共産主義であった間に解体された。
ハウス・オブ・ワンは、この土地がこれまで科学的に調査されたことがなかったことから、起工式の前に考古学者が調査を行うとしていた。発掘調査の第1フェーズでは、聖ペテロ教会の墓地だった部分から、4000体の遺骨が発掘されている。施設内には、この場所で発掘された遺跡が飾られるほか、ベルリンの歴史やベルリンにおける3つの宗教の歴史が展示される予定だ。
プロジェクトの発起人は、プロテスタントのグレゴール・ホーベルク牧師、イスラム教指導者(イマーム)のカディル・サンチ師、ユダヤ教指導者(ラビ)のトビア・ベン-チョリン師の3人。もともとはホーベルク牧師が、ベルリン最古の教会があった場所に、精神的な空間となるものを作りたいと考えたのがきっかけだったという。このアイデアをもとに、ユダヤ教とイスラム教の指導者らも賛同し、3つの宗教のコミュニティが草の根活動を続けて実を結んだ。
英インディペンデント紙は2014年、このプロジェクトが「ベルリンの奇跡」と呼ばれていると報じていた。サンチ師は当時、さまざまな宗教や文化の間での意識的な対話を促進するようなプロジェクトにしたいと述べ、「子どもたちには、多様性が普通である未来を持ってもらいたい」と話していた。
またベン-チョリン師は、ベルリンはかつて、ユダヤ人の根絶が計画された都市であると指摘。そこに世界で初めて3つの宗教の礼拝所が建設されることから、ベルリンは「傷と奇跡の都市」だと表現した。
ガーディアンによると、ドイツ福音主義教会(EKD)常議員会のハインリヒ・ベッドフォード=ストローム議長はドイツ・メディアに対し、反ユダヤ主義やイスラム恐怖症が増加している今の時代に、ハウス・オブ・ワンは重要なメッセージを発信していると述べたという。