シリア大統領選挙──アサド大統領が再選 得票率95%をどう捉える
大統領選前のシリアの首都ダマスカスの様子(5月18日) REUTERS/Firas Makdesi
<シリアのアサド大統領が、得票率95%で再選を果たした。西側諸国の反応は選挙が自由、公正でないなど冷ややかだった>
シリアで5月26日に大統領(任期7年)選挙が実施され、現職のバッシャール・アサド大統領が2012年に公布された現行憲法のもとで、2014年に続いて2度目の当選を果たした。アサド大統領は、旧憲法(1973年公布)のもとでも2度(2000年、2007年)当選しており、今回の当選は通算で4度目となる。
ハマーダ・ハンムード人民議会(国会)議長が5月27日晩に行った記者会見での発表によると、有権者総数、投票総数などは以下の通り。
有権者総数(在外居住者を含む):18,107,109人
投票総数(在外投票を含む):14,239,140票
投票率:64.78%
無効票:14,000票(0.1%)
また、各候補の獲得票数は以下の通り。
バッシャール・ハーフィズ・アサド:13,540,860票(95.1%)
マフムード・アフマド・マルイー:470,276票(3.3%)
アブドゥッラー・サッルーム・アブドゥッラー:213,968票(1.5%)
なお、過去の選挙でのアサド大統領の得票率は、2000年が97.3%、2007年が97.6%、2014年が88.7%だった。
西側諸国の反応
アサド大統領の再選が確実視されるなか、西側諸国の反応は冷ややかだった。
米英仏独伊の外相は5月25日、選挙が自由、公正ではないとしたうえで、「選挙を違法と非難する市民社会団体、反体制派を含むすべてのシリア人の声を支持する」とする声明を発表した。27日には、ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表が「真の民主的投票の基準を満たしておらず、紛争解決に資さない」と非難、トルコ外務省も「違法な特徴を有する」と非難した。
シリア政府の正統性を否定するこれらの国々の対応は予想通りではある。しかし、それは、シリアでの10年に及ぶ紛争に、人道、化学兵器使用阻止、「テロとの戦い」などといった正義を振りかざして介入を続けてきたにもかかわらず、アサド大統領を退陣に追い込むことも、シリア政府を崩壊させることもできなかった無力への言い訳にも聞こえる。
同時に、大統領選挙という主権にかかわる問題の正統性を一方的に否定する姿勢は、シリアをいかに見下しているのかを示してもいる。シリア政府が過去においていかなる過ちを犯したとしても、国民に寄り添うなどと主張し、執拗な内政干渉を行うことは、最上級の侮辱と傲慢以外の何ものでもない。西側諸国が、シリアだけでなく、多くのアジア・アフリカ諸国に対しても今もこうした姿勢をとり続けていることは、周知の通りだ。
シリアの将来はシリア人の総意のみを通じて決められる。ここでいう総意とは、「体制打倒」に象徴されるような一過性の出来事ではない。日々の政治的営為の積み重ねを通じて形成されるものである。大統領選挙が行われたことは、そうした積み重ねられる事実の一つであり、それを頑なに拒んで思考停止に陥れば、その意味を冷静に捉えることすらできない。
分断と占領・駐留のなかでの選挙
前回の大統領選挙は、シリア内戦がもっとも激しかった時期に行われた。各地では、シリア軍、シャームの民のヌスラ戦線やイラク・シャーム・イスラーム国(現在のイスラーム国)、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の民兵である人民防衛隊(YPG)が熾烈な戦いを繰り広げ、多くの地域が政府の支配の外に置かれていた。
今回の選挙が実施された2021年5月においても、シリアは、政府、反体制派、PYDによって分断され、米国(および有志連合)、トルコ、イスラエルが領土の一部を占領、ロシア、そして「イランの民兵」と呼ばれる諸勢力が各所に部隊を駐留させている。しかし、シリア政府は、イドリブ県中北部を除く反体制派の支配地(いわゆる「解放区」)とユーフラテス川西岸のイスラーム国支配地を奪還し、トルコ国境に面する北東部をPYDと分有(共同統治、あるいは分割統治)するまでに勢力を回復した。大規模な戦闘も、2020年2月から3月にかけてのイドリブ県でのシリア・ロシア軍とトルコ軍・「決戦」作戦司令室(シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が主導)の交戦を最後に、1年以上にわたって発生していない。