米投資会社「アルケゴス」騒動は単発的な事故か、それとも危機の前触れか
ヘッジファンド危機再び?(写真は、アルケゴスのオフィスがあるとみられるニューヨーク7番街888番地のビル) Carlo Allegri- REUTERS
<今週、野村HDや日本のメガバンクにも及んだ損失の連鎖の背景には、1998年のヘッジファンド危機の時と同じ過度のリスクテイクがあった>
米国株式市場はこの1週間、大きな揺れに見舞われている。発端は先週3月26日に米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントがデリバティブを利用してポジションを積み上げていたメディア大手バイアコムCBSやディスカバリーなどの株式が、年初来の大幅上昇による割高感や増資発表を嫌気した強い売り圧力にさらされたことだ。
アルケゴスは担保の追加請求(追い証)に応じられず、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどが同社の持ち分を強制的に清算するために前代未聞となる総額200億ドル(約2兆2000億円)以上のブロック取引を行った。アルケゴスはこのほか、中国検索大手の百度(バイドゥ)の米国預託証券(ADR)なども保有していた。
今週に入り、野村ホールディングスやクレディ・スイスをはじめとする世界の主要金融機関が相次いで同社との取引に関連して多額の損失を計上する可能性を明らかにしたことで、市場の揺れはさらに増幅した。国内では、三菱UFJ証券ホールディングスやみずほフィナンシャルグループも無傷ではいられない様相となっている。
市場では、今回の騒動を事故に例える向きがある。コロナ対策としての未曾有の経済対策や大量の資金供給を追い風に株高基調が続く中、市場参加者の警戒感が緩み、気が大きくなっていたところに起きた事故であるとの見方だ。
過度なレバレッジと不透明な取引実態
一体何が問題だったのか。
まずアルケゴスが「トータル・リターン・スワップ」というリスクの高いデリバティブ(金融派生商品)を多用していたことが挙げられる。報道によれば、同社は複数の金融機関を通し、約100億ドルの運用資産にレバレッジを効かせて500億ドル前後ものポジションを保有していた。トータル・リターン・スワップなどデリバティブのポジションは開示義務がないうえ、同社は個人資産の運用を目的に設立される「ファミリーオフィス」の形態を取っているため、規制の監視をほとんど受けていなかった。
それゆえ取引実態が不透明だっただけでなく、金融機関が互いにアルケゴス関連のエクスポージャーを正確に把握できていなかった可能性が指摘されている。
米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は20年近く前からすでにトータル・リターン・スワップの危険性について警鐘を鳴らしていた。2002年の株主への手紙では、1998年に巨額の損失を被り、米連邦準備理事会(FRB)が異例の救済劇を繰り広げたヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)がトータル・リターン・スワップを用いていたとして、これを含むデリバティブ商品は「今はまだ息を潜めているものの、(市場に)致命的な損害を与える危険をはらんでいる金融の大量破壊兵器だ」と危機感をあらわにした。