UAEとイスラエルの国交正常化合意によってシリアは何を得られるか?
UAEとイスラエルの国交正常化合意に、パレスチナでは反発が広がる REUTERS/Raneen Sawafta
<UAEとイスラエルが国交正常化合意に、エジプト、イラン、トルコ、そしてパレスチナ自治政府が強く反発するなか、シリアは(今のところ)、明確な姿勢を示していない。その理由は......>
UAEとイスラエルが国交正常化合意、反発するヒズブッラー
ドナルド・トランプ米大統領は8月13日、アラブ首長国連邦(UAE)とイスラエルが国交正常化に向かうことで合意したと発表した。
エジプト、イラン、トルコ、そしてパレスチナ自治政府が強く反発するなか、イスラエルと今も戦争状態にある紛争当事国の一つレバノンでは、ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長が、レバノン紛争(2006年)の戦勝14周年の記念演説で次のように厳しく非難した。
「UAEが行ったことは、イスラーム、ウルーバ(アラブ性)、ウンマ(民族)、聖なるものへの裏切りだ。 UAEとイスラエルの関係正常化は以前から進んでいた。だが、今回のタイミングはトランプが外交政策の成果を必要としていたことと繋がっている。UAEの為政者が合意することは予想できた。ほかのアラブ諸国もこれから米大統領選挙までの間にイスラエルと和平合意を締結すると予想している。」
沈黙するシリア
だが、1967年の第三次中東戦争でゴラン高原を奪われたもう一つの紛争当事国であるシリアは(今のところ)、明確な姿勢を示していない。
国交正常化が発表される前日にあたる8月12日、バッシャール・アサド大統領は人民議会(国会)議員を前に演説し、こう述べた。
「イスラエルは敵であり、テロの根本であり、それを育んでいる。パレスチナは中心的な大義であり、その民は我々の兄弟である。
ゴラン高原は名誉あるシリア人の心のなかにとどまり続けている。違法な政体の政府が併合を決定しようと、米国の体制が非道徳な声明を出そうとそれは変わらない。我々の帰還権は、愛国心が心のなかで生き続ける限り、持続する。その奪還の道のりは、それ以外の領土をテロリストと占領者から取り戻す道と違わない。国内のシオニストの敗北は国外のシオニストを敗北させ、国土を完全回復する道だ。」
外交攻勢ではなく、守勢を得意とするシリアの反応が遅れることはよくある。だが、UAEの動きをめぐっては、反応を猶予せざるを得ない事情がある。
「アラブの春」波及による断交
2011年3月に「アラブの春」が波及して以降、シリアとUAEを含むアラブ湾岸諸国の関係は急速に悪化した。同年11月、サウジアラビアやカタールのイニシアチブのもと、アラブ連盟はシリアの加盟資格を停止し、UAEはシリアへの経済制裁に参加した。UAEは、トルコ、サウジアラビア、エジプト、フランスといった国とともに、「ホテル活動家」などと呼ばれる反体制活動家の拠点の一つとなった。
とはいえ、UAEは、サウジアラビア、カタールに比べると、シリア国内で活動するアル=カーイダ系組織主体の反体制派への支援に積極的だったとは言えない。
2012年7月にサウジアラビアの支援を受けるイスラーム軍が、首都ダマスカスで、ハサン・トゥルクマーニー副大統領補佐官、ダウード・ラージハ国防大臣とともに、アースィフ・シャウカト国防副大臣を暗殺すると、同年9月、シャウカト国防副大臣の妻でアサド大統領の姉にあたるブシュラー・アサドは子供たちの養育先としてドバイを選んだ。UAE政府は、欧米諸国が制裁対象にしていたブシュラーを受け入れた。