日本人が知らない、アメリカ黒人社会がいま望んでいること
WHERE DO WE GO FROM HERE?
「和解省」を設立するとき
「ありていに言えば、私たちは新しい国の誕生を目の当たりにしている。難産でも必ずやり通す」と言うのは元黒人議員連盟会長のバーバラ・リー下院議員。「同時代を生きる多くの白人が目覚め、とりわけ構造的な人種差別について語り始めた」
リーは「真実・癒やし・変容」委員会を創設するための法案を提出している。「彼らは奴隷制の歴史も現状もよく分かっていない。今日でも政策や予算の優先順位、そして警官による殺害など、さまざまな問題が顕在化しているのに」
後日、私は和解プロセスを機能させる方法についてグリーンに質問しに行った。彼のオフィスには、彼にとっての英雄であるキング牧師と南アフリカ元大統領のネルソン・マンデラ、そして連邦議会史上初の黒人女性議員シャーリー・チザムの肖像画が飾ってあった。
選挙戦で「買収されない、指図されない」というスローガンを掲げたチザムは、党内で怒りを買おうとも真実を進んで述べる「解放された民主党員」だったという。グリーンもその精神を受け継ぎ、アメリカは第2次大戦後のドイツやアパルトヘイト後の南アフリカ同様に、和解のプロセスを始めるべきだと主張する。
グリーン案では連邦政府に「和解省」を創設する。議会で指名承認を受けた「和解長官」は、国および地方における実体験に基づいた記録の作成と市民教育を監督する。何世紀にもわたる奴隷制、そして廃止後も法律に組み込まれてきた差別と抑圧という「国家の原罪」をあがなう努力を続ける。
アメリカがそういう過程を経ていないのは驚くべきことだと専門家は言う。過去に、暴動の発生を受けて委員会が設けられたことはある。1960年代後半のカーナー委員会、90 年代のクリストファー委員会。だが奴隷制に起因する長期的な損害に対し、連邦政府が包括的な是正策のために力を尽くしたことはない。
「アメリカ以外の国は人種にまつわる不平等の過去に対峙し、公式にけりをつけてきた」と和解プロセスを研究する歴史学者のキャスリーン・ベルーは指摘する。「わが国の社会では多くの側面の奥深くに人種差別と白人至上主義が隠れている。その全てをさらけ出さなくては」
まずは歴史認識を共有することが必要だ。白人と黒人は同じ国に暮らしながら、共通の過去について根本的に違う認識を持っている。もちろん現状認識も異なる。
共通の歴史認識ができれば和解プロセスが緒に就く。「オークランドの若者のために修復的司法を」運動のファニア・デービス専務理事は、修復的司法という価値観について説明した。「悪事の影響を被った人全員が一堂に会するかたちで司法を実現する。私たち人間は間違いを犯す。間違いによって人を傷つける。だが償うことはできる。謝罪した上で行動を起こすことができる」
現行の司法制度では、規則に違反した者にどういう罰を与えるべきかが問われる。修復的司法では、誰が被害を受けたか、被害者には何が必要か、加害者にはどんな責任があるか、そしていかに被害を回復して必要なことを実現するかを問う。
警察予算を削って地域サービスに回せという議論が出てきたことをデービスも心強く感じている。ミネアポリス市議会が市警解体の方向に動いたことも高く評価する。それが地域社会主導の修復的司法へと発展することが彼女の願いだ。
デービスはまた、他の自治体がミネアポリスの例に倣うことを望み、和解に向けて全国で取り組む考えを支持する。「黒人の命を大事にする治安システムの創出を可能にするプロセスの第一歩だ」