最新記事

米ロ関係

エスカレートする軍事演習......アメリカとロシアの新冷戦が近づいている

Is the Cold War Back?

2020年2月21日(金)19時00分
ウィリアム・アーキン(軍事アナリスト)

magw200221_ColdWar4.jpg

クロアチアで合同演習に参加する米陸軍空挺兵 STAFF SGT. AUSTIN BERNER/U.S. ARMY RESERVE


リンカーンは地中海で、米空母ジョン・C・ステニスと共に作戦に参加していた。2つの空母打撃群が合同作戦を行うのは、トランプ政権では初めてのことだった。ボルトンが発表を行ったその日、F/A 18Fスーパーホーネット戦闘攻撃機はリンカーンを飛び立って1100キロ離れたルーマニアまで空爆に向かった。そして翌日には東欧上空を通過して1600キロ離れたリトアニアに向かった。

リトアニアでは地上部隊と協力して空爆の訓練を実施。モスクワから800キロも離れていない地点でだ。「私たちは同盟国の空域で即時に作戦を遂行する能力があることを世界に示している」と、米海軍のスティーブン・ゲイ少佐は言った。

アメリカの駐ロシア大使ジョン・ハンツマンはこの作戦中、リンカーンに乗艦していた。これら演習中の空母が外交に与える影響力は「10万トン級」だと彼は語った。

その後リンカーンは予定されていたクロアチアへの寄港をキャンセルし、ペルシャ湾に向かった。その間も、NATOの演習はフィンランドやエストニア、スコットランドやギリシャ、トルコなど8カ所で行われていた。

ある米欧州軍の幹部によれば、イランへの対応のために欧州への派兵が取りやめになったり遅れたりすることはなかった。ロシア空域近くで作戦行動を行っていたのは米軍機だけではない。5月には、NATO加盟9カ国の空軍機が「航空警備」任務でバルト海諸国やポーランド、ルーマニアの基地に派遣された。

倍増した演習・訓練予算

活発な欧州諸国の動きを主導したのは、やはりアメリカだ。これらの演習と派兵は米国防総省のプログラム「欧州抑止イニシアチブ(EDI)」の下で行われた。EDIはクリミア危機を受けて始まった。これによってバルト海諸国とポーランドにおけるNATO軍の展開が拡充され、バルト海諸国と欧州南東部、アイスランドの防空も強化。米空軍の派遣も加速された。

2019年3月、トランプ政権がEDI用に要求した予算は前年比10%減の59億ドル。トランプのロシアに対する弱腰の表れとの見方もあった。退任間近のスカパロッティはヨーロッパに対するロシアの脅威が「現実的かつ増大している」として、ヨーロッパに関する「抑止力にはまだ不安がある」と米議会で述べた。

国防総省で会計監査を担当するエレーヌ・マッカスカーは報道陣に対し「ヨーロッパの負担拡大を望む」と発言。ヨーロッパの富裕国が防衛費負担を拡大してアメリカの負担を減らすべきだとのトランプ政権の主張を繰り返した。

だが米政権のEDI用予算の細目を見ると、実質的な削減はないことが分かる。削減分は「経費」などにとどまっており、演習・訓練費用は2億9100万ドルから6億900万ドルと前年から倍増した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中