エスカレートする軍事演習......アメリカとロシアの新冷戦が近づいている
Is the Cold War Back?
リンカーンは地中海で、米空母ジョン・C・ステニスと共に作戦に参加していた。2つの空母打撃群が合同作戦を行うのは、トランプ政権では初めてのことだった。ボルトンが発表を行ったその日、F/A 18Fスーパーホーネット戦闘攻撃機はリンカーンを飛び立って1100キロ離れたルーマニアまで空爆に向かった。そして翌日には東欧上空を通過して1600キロ離れたリトアニアに向かった。
リトアニアでは地上部隊と協力して空爆の訓練を実施。モスクワから800キロも離れていない地点でだ。「私たちは同盟国の空域で即時に作戦を遂行する能力があることを世界に示している」と、米海軍のスティーブン・ゲイ少佐は言った。
アメリカの駐ロシア大使ジョン・ハンツマンはこの作戦中、リンカーンに乗艦していた。これら演習中の空母が外交に与える影響力は「10万トン級」だと彼は語った。
その後リンカーンは予定されていたクロアチアへの寄港をキャンセルし、ペルシャ湾に向かった。その間も、NATOの演習はフィンランドやエストニア、スコットランドやギリシャ、トルコなど8カ所で行われていた。
ある米欧州軍の幹部によれば、イランへの対応のために欧州への派兵が取りやめになったり遅れたりすることはなかった。ロシア空域近くで作戦行動を行っていたのは米軍機だけではない。5月には、NATO加盟9カ国の空軍機が「航空警備」任務でバルト海諸国やポーランド、ルーマニアの基地に派遣された。
倍増した演習・訓練予算
活発な欧州諸国の動きを主導したのは、やはりアメリカだ。これらの演習と派兵は米国防総省のプログラム「欧州抑止イニシアチブ(EDI)」の下で行われた。EDIはクリミア危機を受けて始まった。これによってバルト海諸国とポーランドにおけるNATO軍の展開が拡充され、バルト海諸国と欧州南東部、アイスランドの防空も強化。米空軍の派遣も加速された。
2019年3月、トランプ政権がEDI用に要求した予算は前年比10%減の59億ドル。トランプのロシアに対する弱腰の表れとの見方もあった。退任間近のスカパロッティはヨーロッパに対するロシアの脅威が「現実的かつ増大している」として、ヨーロッパに関する「抑止力にはまだ不安がある」と米議会で述べた。
国防総省で会計監査を担当するエレーヌ・マッカスカーは報道陣に対し「ヨーロッパの負担拡大を望む」と発言。ヨーロッパの富裕国が防衛費負担を拡大してアメリカの負担を減らすべきだとのトランプ政権の主張を繰り返した。
だが米政権のEDI用予算の細目を見ると、実質的な削減はないことが分かる。削減分は「経費」などにとどまっており、演習・訓練費用は2億9100万ドルから6億900万ドルと前年から倍増した。