最新記事

情報セキュリティー

モサド元長官が日本人へ語る「組織を率いる心得」

2020年2月7日(金)18時00分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

その選択は決して突飛なものではない。現在、スパイ工作にはサイバー攻撃が欠かせなくなっているからだ。これまでスパイが盗み出してきた機密情報や知的財産などはほとんどがデジタル化され、サーバーなどに保存されている。人々のコミュニケーションは激変し、今ではほとんどがパソコンやスマートフォン、携帯電話などで行われている。そうしたデータに秘密裏にアクセスできれば、スパイが必要な情報はほとんど手に入る時代になった。スパイ工作においてサイバー空間での活動も必要不可欠になっているのは、当然だと言える。

例えば最近、日本でも三菱電機へのサイバー攻撃がニュースになった。中国政府系サイバー集団に狙われた同社は、インフラや軍事などの重要情報は漏れていないと発表しているが、退職者や就職希望者など人材の情報は盗まれてしまったという。もちろん三菱電機ほどの企業になれば、サイバーセキュリティー対策は十分に行なっているが、それを上回る攻撃をしてくるのが中国政府系サイバー集団の実力である。今後は情報が漏れた有能な人材を取り込もうとするスパイ工作に注意が必要になるだろう。

筆者の新著『世界のスパイに食い物にされる日本』(講談社+α新書)では、まさにこうした現代のスパイの実態や、各国のスパイ工作について詳しく紹介している。三菱電気のケースでは、サイバー攻撃とスパイ工作がハイブリッドで行われる可能性が考えられる。とにかく、これが今のインテリジェンス活動の現実なのだ。

少し話が逸れたが、パルド前長官は、実のところ引退前から、サイバーセキュリティーに進む構想は練っていたと言う。「セキュリティー・システムのアイデアが固まってから、軍などの仕事を終えた、経験豊富でイスラエルでもベストと言える人材を集めた。そこからシステム開発に2年を要したがね」

イランの核燃料施設をサイバー攻撃

当初、抱えるハッカーらの数は30人に上ったという。その面子は、モサドやイスラエル軍の「8200部隊」出身者などだった。8200部隊は、イスラエルの国家戦略として行われるサイバー工作を専門に行っている、世界屈指の精鋭ぞろいのハッカー集団である。

この8200部隊は、モサドとともに、2009年にイランのナタンズ核燃料施設をサイバー攻撃で破壊した米政府主導の「オリンピック・ゲームス作戦」(通称、スタックスネット)に協力している。あまりにも有名なこのスタックスネットは、サイバーセキュリティー史で最も有名なケースだと言える。

パルドの立ち上げた会社「XMサイバー」は、世界各地で「銀行や証券取引所、自動車産業、病院、インフラ産業へもシステムを提供している。詳細は言えないが、各地で政府にも導入している」と、パルドは語る。

では同社が提供するサイバーセキュリティー対策とはどんなものなのか。

パルドのシステムは「HaXM(ハクセム)」と呼ばれ、軍事シミュレーションで使われる手法を応用する。要するに、実際に起きるサイバー攻撃を事前にシミュレーションすることで、その脅威への対策を行おうというものだ。しかもすべて自動で機能し、24時間、365日、休むことなく対策を続ける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中