「沢尻エリカ報道」で見過ごされる薬物犯罪の最前線
世界ではテロ対策と同等の危機意識が持たれている薬物犯罪(フィリピンで摘発された薬物取引、16年) REUTERS/Romeo Ranoco
<手軽なSNSを通じて一般人が薬物に汚染されていく実態に警鐘を鳴らす元麻薬取締官に、本当に知るべき麻薬事情と日本での大麻解禁の是非を聞く>
女優の沢尻エリカが、合成麻薬を所持した罪で東京地裁から懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決を言い渡された――。薬物犯罪に関するニュースが毎年のように日本社会を騒がせているが、耳目を集めるのは沢尻のような芸能人や著名人による犯罪と、それに伴う賠償問題の報道が多い。そうした「芸能ネタ」が世間を騒がせる一方で、世界の薬物事情や日本に迫る脅威の実態は見過ごされがちだ。
実際、日本を巨大マーケットとして標的にする外国の犯罪組織の動きや、身近に迫るネット取引の脅威など、日本社会の足元には薬物汚染が急拡大している――。こう警鐘を鳴らすのは、麻薬取締官としての自身の体験を交えながら薬物犯罪とその捜査の実態を綴った『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新書)を上梓した瀬戸晴海氏。なぜ日本は狙われるのか、海外で広がる大麻解禁をどう考えるべきなのか、本誌・前川祐補が聞いた。
――日本は今、「かつてない薬物汚染の激流に呑み込まれようとしている」と指摘している。世界がそれほど日本をターゲットにする理由は?
1つは末端密売価格が高額だからだ。例えば、覚醒剤は1グラムあたり約6~7万円で取引されているが、これは世界最高値の水準で、東南アジアの5~10倍にもなる。だから海外の犯罪組織は「日本は売れる市場」と捉えている。
――その日本市場をめぐり外国のマフィアが抗争を繰り広げている?
かつては薬物のマーケットをめぐり犯罪組織がしのぎを削り合っていたが、最近は結託するようになっている。これは(自動車や家電製品の製造の様に)薬物も1つの産業としてサプライチェーン化しているためだ。(製造、販売、おろしなどの役割が)どこがどうつながっているのか実態は分かってはいないが、アジアのハブは香港だ。例えば、メキシコのある薬物犯罪組織が一時期日本をターゲットにしていたことがあるが、その際、密輸入に香港人が絡んでいたことがあった。おそらく香港の組織が商社的な立場になって動いていたのではないかと疑われるが、推測の域を出ない。