フランス人記者が見た伊藤詩織さん勝訴とこれからの戦い
今月18日の判決後に支援者らに挨拶する伊藤詩織さん Tomohiro Sawada-Newsweek Japan
<ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんに性的暴行を受けたと訴えた民事裁判で勝訴。でも、フランス人女性記者から見れば「半勝利」だ>
ここ数年、フランスのラジオのニュース番組を聞いていると、必ず出てくるのが性犯罪事件の話だ。女性の立場が高いと思われるフランスでも、女性へのセクハラ、DV(ドメスティック・バイオレンス)、レイプの問題はまだ深刻だ。交際相手か夫に殺された女性は、なんと年間で130人に上る。ただ最近、#Metoo と他の運動のおかげで女性の声が大きくなった。彼女たちを中心とした活動のおかげで法律の面でもいろいろと変わり、明らかに状況は改善しつつある。
女性の声が大きくなったことがポイントだ。女性の声が大きくなったから、一部の男性も「俺の姿勢は大丈夫か」「女性はこんなに心的外傷(トラウマ)を受けるのか」と、自分の態度や言葉を反省するようになってきた。
では、日本はどうか。「いつか日本人女性の声が大きくなるか」と聞かれたら、たぶん最近までは、「ならない」と答えてしまっていた。泣き寝入りし、他人に迷惑をかけないように行動する女性が少なくないだろう。大きい声で「もうたくさんだ!」と声を上げる日本人女性はあまりいないだろう。ただ、これから変わるという期待が一段高くなったと思う。なぜなら、ある事例があったからだ。
ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたとして損害賠償を求めた民事裁判で12月18日、東京地方裁判所は山口さんに330万円の賠償を命じる判決を言い渡した。正直に言えば、判決が出る前、私は伊藤さんが勝つことはあまり期待していなかった。中途半端な判決になるのではないかと恐れていた。
だから、東京地裁の前で突然、男性が「勝訴」と書いてある手持幡(てもちばた)を広げた際は戸惑った。山口さんも伊藤さんを訴えていたために、判決は同時に言い渡された。私は、山口さんの勝訴かもしれないと思い、慎重になった。でも5分後、伊藤さん本人が裁判所から出てきて、マスコミに自分たちが勝ったと報告したので、驚いたというか、ある程度ほっとした。
私は通信社の記者として、フランスのマスコミ向けに記事を書く。伊藤さんのことは以前にも書いた。1年半前に東京都内で伊藤さんに会い、コーヒーを飲みながら、彼女の話を3時間聞いた。彼女が執筆した『Black Box』も発売直後に読んだ。今年フランス語版も出たので、また読み直してみた。説明が足りない部分や通じないところがあるとは思ったが、伊藤さんは強い人だと確信した。また、今回の事件についてとてもショックを受けたのは、伊藤さんに対する一部の男性や女性からの批判だ。とてもひどかったし、全く許されないことだと思う。