最新記事

5G通信

5G通信が気象衛星に干渉し、天気予報の精度を40年前に逆戻りさせると問題に

2019年12月4日(水)17時10分
秋山文野

打ち上げ予定のJPSS-2衛星 Credit: Orbital ATK

<第5世代移動通信方式5Gが使用する周波数帯域が、気象衛星に干渉し、気象予報の精度を低下させる恐れがあると問題になっている......>

第5世代移動通信方式5Gが使用する周波数帯域の一部が米国の気象衛星の使用する帯域と干渉し、ハリケーン観測など気象予報の精度が最大で30パーセント低下する恐れがある。2019年春ごろに顕在化した懸念は、世界気象機関(WMO)が懸念する声明を発表するまでに発展した。

気象予報が1980年当時の精度になってしまう

NOAA(アメリカ海洋大気庁)とNASAは、共同で「JPSS」という気象衛星を運用している。2011年から2031年までかけて5機の衛星網を完成させる計画だ。地球を南北に周回する軌道を通り、大気の温度、湿度、高度別のオゾン量や雲の分布、海面温度などを観測することができる。日本の気象庁もJPSS衛星のデータを受信しており、欧州との協調観測も行っている世界の気象観測の要だ。

JPSS衛星3機に搭載されるATMS(クロストラック走査マイクロ波放射計)は大気の温度と湿度を計測するセンサーで、23~184ギガヘルツのマイクロ波を使用する。毎日の天気予報の基礎データとして欠かせないだけでなく、長期間に渡って大気の水分量を観測することで気候変動のモデル作成にも使用される。懸念されているのはこのATMSの観測への影響だ。

NOAA長官は、「気象予報の精度が30パーセント低下し1980年当時の精度になってしまうだけでなく、ハリケーンの事前予測期間が2日から3日ほど短くなる」としている。米海軍からも電波干渉によって降雨や降雪、海水面、熱帯のサイクロン地域での気象予測などが影響されるとのメモが明らかになっている。

国際電気通信連合の調整が行われたが......

気象衛星危機の発端は、2019年3月にFCC(アメリカ連邦通信委員会)が米国で5Gの帯域として使われる24ギガヘルツ帯の周波数オークションを開始したことにある。この帯域は気象衛星が大気水分量を観測するために使用する23.8ギガヘルツの帯域と近接しており、5G通信機器が24ギガヘルツ帯の電波を発信した際のノイズを気象衛星が誤って観測してしまう恐れがある。

気象衛星を運用するNOAAとNASAは、「帯域外発射」(使用する周波数帯に近接する周波数の電波を発射してしまう一種のノイズ)の規制値が低すぎるとして、FCCに対しオークション延期など調整を求めていた。しかしFCC側は「5Gの電波には高い指向性があり、また5Gが使用する周波数帯と衛星の周波数帯の間には十分な緩衝領域がある」として強硬な姿勢を崩さなかった。

欧州は帯域外発射の規制値として、米国よりもはるかに厳しいマイナス42デシベルワットという値を求めていた。調整はエジプトで10月28日から11月22日まで開催された国際電気通信連合(ITU)無線通信部門の会議である世界無線通信会議(WRC-19)といった国際会議で行われることになった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル首相がハンガリー訪問へ、ICC逮捕状無視

ビジネス

日米、過度な為替変動が経済に悪影響与え得るとの認識

ワールド

ミャンマーの少数民族武装勢力、国軍が大地震後も空爆

ワールド

トランプ政権、米政府と契約の仏企業に多様性プログラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中