最新記事

宇宙開発

宇宙飛行士が語る「宇宙日本食」体験──宇宙で食料を作る試み

2019年11月22日(金)17時30分
秋山文野

植物栽培実験装置(Plant Habitat)で育成した植物と金井宇宙飛行士 JAXA/NASA

<各国の宇宙飛行士の好みや食べ慣れた味付けに合わせた、参加国独自の宇宙食の開発が進んでいる......>

宇宙食をめぐる話題はいつも人気だ。どうやら、チューブ式の食事だけではないらしいということは知られるようになってきた。だが、誰が何をどんなふうに食べているのかということは宇宙飛行士ミッションの中でいつも話題になる。

1965年3月、ジェミニ3号に搭乗したジョン・ヤング宇宙飛行士がこっそり船内服のポケットに忍ばせて持っていったコンビーフ・サンドイッチ(ほとんど食べられずに持ち帰られ、当時のジェームズ・ウェッブNASA長官が議会で証言するほどの大騒ぎになった)は、現在ではアクリルに封じ込められて博物館の展示品になっている。

宇宙で食料を作ろうというJAXAと民間企業の共同プログラム

宇宙食をいつも地上で食べているような"普通のもの"にしたいという要求も当然ある。国際宇宙ステーションに搭乗する宇宙飛行士のため、各国の宇宙飛行士の好みや食べ慣れた味付けに合わせた、参加国独自の宇宙食の開発も進んでいる。

日本では「宇宙日本食」としてホテイフーズの「ホテイやきとり(たれ味)宇宙用」と「ホテイやきとり(柚子こしょう味)宇宙用」がJAXAによって認証された。やきとりに加え、鮭おにぎりや赤飯、レトルトカレー、サバの缶詰(味噌煮も醤油味もある)や緑茶など19社による34品目が認証されいる。

すでにある食品を宇宙食化するだけでなく、新たに宇宙で食料を作ろうという試みも始まっている。JAXAと民間企業が共同で2019年3月から開始した「Space Food X」は宇宙の食料生産の技術、マーケットの創出を目指すプログラムだ。

これまでの宇宙食は、地球から調理済みの食品を持っていって宇宙で消費する、いわば「お弁当」だ。そのため、宇宙日本食の認証にしても保存食としての安全性や保存期間、製造プロセスの仕様を満たすこと、といった基準をもとに審査される。一方で、現在のISS滞在よりもさらに長期間になる火星探査や、月面での恒久的な拠点などが実現するとすれば、地球上で製造した食品を宇宙へ届け続ける食料供給には限界が来ることが考えられる。

そこで、植物工場のような仕組みを宇宙の閉鎖環境の中で実現して食料を現地生産できるようにする。例えば、サツマイモは生産効率が高く、押入れ程度のコンパクトなスペースの中でいっぱいに栽培することで人ひとりのカロリーを満たすことができ、塊根(いもの部分)も葉も食べられるため味覚のバリエーションも満足できるという。

水耕栽培の植物工場とドジョウなど魚の養殖を組み合わせる研究もある。藻類と動物の細胞を培養し、藻類が光エネルギーを取り入れて供給する酸素や栄養をもとに動物の細胞を成長させ、動物細胞から培養肉を作る、という構想もある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米関税、日米貿易協定の精神に鑑み疑問なしとしない=

ワールド

イスラエル首相がハンガリー訪問へ、ICC逮捕状無視

ビジネス

日米、過度な為替変動が経済に悪影響与え得るとの認識

ワールド

ミャンマーの少数民族武装勢力、国軍が大地震後も空爆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中