最新記事

米農業

トランプが米トウモロコシ農家に見舞った損害のダブルパンチ

Rural Base May Reject Trump in 2020 Due to His Agriculture Policies

2019年9月9日(月)19時30分
ブレンダン・コール

畑より資金のやりくり? ウィスコンシン州のトウモロコシ農家ゴードン・ギースの一日は、書類仕事と電話から始まる。Darren Hauck-REUTERS

<前回の大統領選では農村部の支援を受けたトランプだが、石油業界に有利な政策を打ち出して、苦境に立つ農家に追い打ちをかけた。農民票はいよいよ危ない?>

ドナルド・トランプ大統領は、貿易政策を通じてアメリカの農業地帯を危険にさらし、トウモロコシなどの国内農産物の需要を減退させている――アイオワ州の大手エタノール工場の幹部は、そう語る。

アメリカの農業部門は、中国や他の地域とのトランプの貿易戦争の矢面に立たされており、トランプがこれまであてにしてきた農村部の強固な支持基盤は弱体化している。

ノースダコタ州農場組合のボブ・カイレン副会長は先日、ニュース専門局MSNBCに登場。TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱やその他の貿易問題のせいで、自身の小麦農場が40万ドルの損失を被ったとトランプを非難した。

トランプは農家に対する大規模支援を実施したが、大豆とトウモロコシを作っているオハイオ州の生産農家クリストファー・ギブスは、不満を抱く農家を黙らせるための「口止め料」に過ぎないと言う。

なかでも動揺が大きいのはトウモロコシ農家だ。貿易戦争のために対中輸出がダメになったのに加え、トランプ政権が最近、国内31の製油所に対してバイオ燃料をガソリンに混合する義務の適用除外措置を発表したからだ。

<参考記事>米国産の余剰トウモロコシ購入へ トランプ=安倍、通商交渉で原則合意し9月下旬に署名

利益を相殺する損失

温室効果ガス排出量を削減するための再生可能燃料基準(RFS)政策として、アメリカではガソリンにトウモロコシなどを原料にしたエタノールを一定割合で混合することが義務づけられている。

ただでさえ経営的に厳しい中小の製油所に対しては混合義務の適用がもともと免除されていた。だが環境保護庁(EPA)の今回の改訂で、エクソンモービルやシェブロンといった石油大手も免除が認められることが明らかになったのだ。

アメリカで生産されたトウモロコシは約40%がエタノールに変わる。5年連続のトウモロコシ価格の低迷と、悪天候で収穫量の不振にも悩むトウモロコシ農家にとってEPAによる義務免除は新たな一撃になる。

<参考記事>「トランプが大豆産業を壊滅させた」──悲鳴を上げるアメリカの大豆農家

トランプ大統領は2カ月前、アメリカで最もエタノールの生産量が多いアイオワ州を訪れ、E15ガソリン(エタノール混合率を15%に高めたガソリン)を政府が承認したことについて話し、それによって中西部におけるトウモロコシの需要が増加すると述べた。

だがこのところ、トランプに対する意見には変化がみられる。今回の政策は、E15によって得られる利益を相殺する以上の打撃となるからだ。

アイオワ州アトランティックにあるエリート・オクタン社のニック・ボウディッシュCEOは、16年の大統領選でトランプを支持した。中国と戦うという勇ましいトランプの言葉に勇気づけられたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中