最新記事

核・ミサイル開発

イラン核合意は存続できるか 欧州の「頼みの綱」は中国、インド

2019年5月13日(月)09時11分

イランが米国の制裁再開に対抗し、核合意の履行を一部停止すると表明したが、欧州連合(EU)主要国は合意を守っていく方針だ。写真はイラン国旗。ウィーンのIAEA本部前で3月撮影(2019年 ロイター/Leonhard Foeger)

イランが米国の制裁再開に対抗し、核合意の履行を一部停止すると表明したが、欧州連合(EU)主要国は合意を守っていく方針だ。もっともEUにとって頼みの綱は中国とインドで、両国がイラン産原油を輸入できなければ核合意は崩壊するとみられる。

英国、フランス、ドイツは2015年に、米国、中国、ロシアと共にイラン核合意に署名。米国は昨年、合意から撤退して制裁を再開したが、欧州3カ国は制裁を回避できる貿易ルートを使って影響を相殺しつつ、同国の核開発を防ぐ構えだ。

しかしイラン経済は、ドル建てで取引される原油輸出に依存している。制裁回避ルートは複雑で未だに機能しておらず、今後も原油販売に使えない可能性がある。

欧州の外交筋高官は「状況が悪化するリスクが出てきたが、一気に崩壊するのではなく一歩ずつ悪くなるだろう」と予想。フランスの外交官は、制裁回避の仕組みが不十分で「負のスパイラル」に陥っていると述べ、別の欧州特使は、イランが核合意から「徐々に撤退」する可能性を指摘した。

EUは、核合意を破棄しなくてもイランのウラン濃縮を制限できるとの立場を取っている。

しかしイランのロウハニ大統領は8日、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国が米国の制裁を回避するためさらなる支援策を打ち出さなければ、ウラン濃縮を再開する可能性を示した。

食品と医薬品だけ

欧州の外交官や高官らは、核合意を守る時間はまだ残されているとして、最終通告を受け入れていない。あるEU高官は、イランが合意を順守しなかった場合のEUとしての制裁措置を検討するのは時期尚早だと述べた。

この高官は「イランの発表は、核合意の違反にも撤退にもあたらない。イランの順守状況を評価するのは国際原子力機関(IAEA)だ。イランが合意に違反していれば、その時点でわれわれは対応する」と語った。

米国が制裁を再開した11月以来、イランの欧州向け原油輸出は徐々に減少している。米国は5月2日、イタリアとギリシャの制裁猶予を外し、この時点で中国、インド、トルコも猶予が撤廃された。

EU高官の推計では、イランは経済を維持するために日量約150万バレルの原油を販売する必要があるが、現在は100万バレルを切って経済危機をもたらす恐れが生じている。

EUは、制裁の影響を回避するためにイラン産原油と欧州製品を交換する「貿易取引支援機関(INSTEX)」を発足させた。しかし稼動は6月末で、対応能力にも限りがある。

別の欧州外交筋は「INSTEXは食品と医薬品のニーズに答えるだけで、石油のニーズは満たせないため、解決策にならない。何しろ仕組みがまだ完成していない」と話した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中