最新記事

加齢による記憶力低下が、電気刺激で20代並みに回復した:米研究

2019年4月11日(木)17時40分
高森郁哉

電気的な刺激で記憶力が回復...... magicmine -iStock

<ボストン大学の脳科学者らが、高齢者の脳に電気的な刺激を頭皮を通じて送ると20代と同程度に記憶力が回復するという研究成果を発表した>

自然に記憶力が低下する60〜70代の被験者に対し、電気的な刺激を頭皮を通じて脳に送ると、20代の被験者と同程度に記憶力が回復した──。そんな研究成果を、米ボストン大学の脳科学者らが発表した

20代後半か30代前半から作業記憶の低下が始める

ボストン大学のロバート・ラインハート助教授とジョン・グエン氏がまとめた論文が、神経科学系の英学術誌『ネイチャー・ニューロサイエンス』に掲載され、英メディア『ザ・ガーディアン』などが報じた。

ラインハート助教授の説明によると、今回の研究で対象にしたのは「作業記憶(working memory)」を司る脳の領域。作業記憶とは、買い物のリストを暗記したり、鍵を置いた場所を覚えているといった、日常生活の中でごく短期間保たれる記憶だという。

一般に20代後半か30代前半の頃から、脳の特定部位が徐々に分断されて同期がうまくいかなくなり、作業記憶の低下が始まる。60代や70代の頃には神経回路が相応に悪化し、認知症などを患っていなくても認知障害を経験する人が増えるとしている。

脳の同期を電気刺激で取り戻す

ラインハート助教授らは、脳の同期の低下(リズムの乱れ)を、電気刺激を与えることによって改善することで、作業記憶を回復できるのではないかと考えた。

実験では、60〜76歳の高齢者42人と対照群の20〜29歳の若者42人に、よく似た2枚の画像を連続して見せて、異なる部分を指摘させるというテストを実施。電気刺激を与える前のテストでは、若者のほうが高齢者よりもはるかに正確だった。

その後、高齢者には各自の脳のリズムに調整した電気刺激を25分間与えてからテストを再度実施したところ、正解率は20代とほぼ同じ水準にまで向上した。また、記憶の改善は刺激を加えてから約50分間持続したという。

electrostimulation-brain1.jpg

記憶タスクを行っている間の作業記憶に関する脳活動は、20歳の脳内で活発化するが(左)、70代の脳内では休眠状態のまま(中央)。電気刺激後、70歳の脳活動は20歳の脳に近づく(右)。Reinhart Lab/Boston University

ラインハート助教授は、今回の研究成果を認知障害の治療に応用できればと期待している。一方で識者からは、臨床試験でより多くの被験者に実施し、再現性があるかどうかを確かめる必要があるとの声もあがっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中