最新記事

歴史

BTSはなぜ「原爆Tシャツ」を着たのか?原爆投下降伏論のウソ

2018年11月15日(木)13時00分
古谷経衡(文筆家)

韓国の音楽グループ、BTS(防弾少年団)のコンサートを観に東京ドームに集まったファン(11月13日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

【1】原爆投下で日本が降伏した、のウソ

韓国の音楽ユニットBTS(防弾少年団)のメンバーのひとりが、原爆投下直後のキノコ雲の写真(長崎)と、朝鮮半島が日本の支配から解放された写真を並列したプリントTシャツを来ていた事実が内外で大きな波紋を呼んでいる。結果、BTSが登場するはずだった音楽番組への出演が軒並みキャンセルされるなど、その波紋はとどまるところを知らない。

なぜBTSは原爆投下直後のキノコ雲と、植民地解放の写真を並列したTシャツを着たのか。答えは明瞭で、どんな意図があるにせよ、「広島・長崎という二発の原爆が日本を降伏させ、朝鮮半島の解放につながった」という歴史認識が、広く韓国世論一般で定着しているからだ。

この、「原爆によって日本が降伏した」という歴史認識は、韓国ばかりでは無く日本の中にも存在する。そして当の原爆を投下したアメリカ国内でも、「原爆によって日本が降伏した」というのは、広く定着している歴史の通念である。

しかし、「原爆によって日本が降伏した」という歴史認識は、原爆投下を何が何でも正当化したいアメリカが、戦後に広めたプロパガンダの一種であり、正しい歴史認識とは言いがたい。日本が先の戦争に降伏した直接要因は、二発の原爆投下では無く1945年8月9日に行なわれた「ソ連対日参戦」である。

本稿では、1945年8月9日以前、中立関係にあったソビエトへ、いかに日本が和平工作の望みを賭けていたのか。そしてそれが同日裏切られたショックはどれほど大きかったのか、をまず考察する。そして広島・長崎の原爆の凄惨な現実を、当時の戦争指導者やマスメディアがどのように報じ、どのように受け止めていたかをも考察する

広島・長崎への原爆投下とその被害は、私達は現在、様々な媒体でその余りにも酷い状況を知るに至っている。しかし、原爆が投下された1945年8月初旬、インターネットもテレビカメラ中継も無い日本の戦争指導者は、原爆被害を軽視し、あくまで本土決戦完遂の意思を貫き通した。

日本降伏の決定打はソ連対日参戦であり、そしてまたその事実は、二発の原爆投下が「全く必要の無い殺戮であった」事実を私達に問いかけているのである。本稿を読めば、BTSの「原爆Tシャツ」の背景にある「原爆によって日本が降伏した」という歴史認識が、いかに事実とかけ離れた虚構であるかがおわかり頂けるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地

ビジネス

米国株から資金流出、過去2週間は22年末以来最大=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中