中国、トレイルラン人気が急上昇 欧米メーカーから大会開催地まで熱視線
8月31日、中国西部の青梅省からチベットに広がる高地は夜明けを迎え、サフラン色の服に身を包んだ仏教の僧侶が、100キロ走のスタートを前に体を動かすアスリートたちに祝福の言葉をかけていた。写真は8月11日、青海省の野を走るスーパーサーモン・ウルトラマラソンの参加者(2018年 ロイター/Thomas Peter)
中国西部の青梅省からチベットに広がる高地は夜明けを迎え、サフラン色の服に身を包んだ仏教の僧侶が、100キロ走のスタートを前に体を動かすアスリートたちに祝福の言葉をかけていた。彼らはこれから、砂丘や川や峡谷を越えていく。
出走を待つスポーティーな彼らは、都市部の中間層。「ウルトラマラソン」に参加するため、何千元(何万円)もかけて青海省北西部の龍羊峡水庫にやってきた。都市部の住人さえマラソンに参加することはまれで、ジーンズにビーチサンダル姿の「ランナー」すらいた10年前からすれば劇的な変化だ。
山野を走るトレイルランニングの競技人口はまだ少ないが、急速に増えている。地元の地方政府と企業は、中央から遠く離れた山がちなこの地域に巨額の金を落とし、ビジネスチャンスを生んでくれることを期待している。
「ここに来た当時、龍羊峡は本当に遠いと思った。景色は美しいが辺境で、経済的に遅れていた」と、中国最大のサーモンの養殖業者である青海民沢龍羊峡生態水殖のYing Miyan会長は話す。同社は、ここで行われる「スーパーサーモン・100キロ・ウルトラマラソン・チャレンジ」のスポンサーだ。
内陸部に産業を
静かな湖のほとりにある人口3000人の龍羊峡はこの10年、スポーツ好きの旅行客を呼び込もうと、16億元(約260億円)を投じて自転車の競技トラックや風光明媚な観光地を整備し、ホテルを改修してきた。そのほとんどは民間からの出資だ。
フルマラソンの数倍の距離を走るウルトラマラソンは通常、山野を駆け抜けるトレイルランニングの形で行われる。
龍羊峡の当局者がロイターの取材に応じることはなかった。だが、今年初めて開催された「スーパーサーモン」トレイルランニング大会には500人以上が参加し、町にただ1つの一泊300元(約4800円)のホテルは満室になった。大会終了後に数日延泊する客もいた。
Ying氏の会社は参加者に食用サーモンや、賞金1万5000元を提供した。男性の優勝者には、体重と同じ重さのサーモンを贈呈した。
国営メディアは、スポーツのイベントで観光客を呼び込む試みは成功だったと評価。今年になって龍羊峡の湖を訪れた観光客は1万人と、すでに昨年から倍増したとしている。
中国のスポーツ行政を所管する当局は2017年、龍羊峡を「スポーツと余暇の特別地区」に認定した。同局がリストアップした100カ所のうち、青海省から選ばれたのはここだけだった。
中国政府は20年までにこのような町を全土で1000カ所認定し、内陸部に持続可能な産業をもたらそうとしている。だが、そのすべてが収益を生むかどうか、疑問視する向きもある。
実際、龍羊峡に落ちる利益は、今のところまだわずかだ。8月上旬、町中心部の建物は空室ばかりで、カラオケ店には客は見当たらず、市場を走る通りにはゴミが散乱していた。
北京にあるスポーツイベントの企画会社Xinzhi Exploring Groupで大会運営を担当するYu Yanmeng氏は、利益が出るイベントはなかなかないと話す。
「こうしたレースやスポーツ活動は、いったん軌道に乗れば、地元の観光業や景観の影響力が広がり、町の顔になる。より知名度を高めて、経済成長を伸ばすことができる」と、Yu氏は話す。