最新記事

スポーツ

中国、トレイルラン人気が急上昇 欧米メーカーから大会開催地まで熱視線

2018年9月13日(木)16時49分

8月31日、中国西部の青梅省からチベットに広がる高地は夜明けを迎え、サフラン色の服に身を包んだ仏教の僧侶が、100キロ走のスタートを前に体を動かすアスリートたちに祝福の言葉をかけていた。写真は8月11日、青海省の野を走るスーパーサーモン・ウルトラマラソンの参加者(2018年 ロイター/Thomas Peter)

中国西部の青梅省からチベットに広がる高地は夜明けを迎え、サフラン色の服に身を包んだ仏教の僧侶が、100キロ走のスタートを前に体を動かすアスリートたちに祝福の言葉をかけていた。彼らはこれから、砂丘や川や峡谷を越えていく。

出走を待つスポーティーな彼らは、都市部の中間層。「ウルトラマラソン」に参加するため、何千元(何万円)もかけて青海省北西部の龍羊峡水庫にやってきた。都市部の住人さえマラソンに参加することはまれで、ジーンズにビーチサンダル姿の「ランナー」すらいた10年前からすれば劇的な変化だ。

山野を走るトレイルランニングの競技人口はまだ少ないが、急速に増えている。地元の地方政府と企業は、中央から遠く離れた山がちなこの地域に巨額の金を落とし、ビジネスチャンスを生んでくれることを期待している。

「ここに来た当時、龍羊峡は本当に遠いと思った。景色は美しいが辺境で、経済的に遅れていた」と、中国最大のサーモンの養殖業者である青海民沢龍羊峡生態水殖のYing Miyan会長は話す。同社は、ここで行われる「スーパーサーモン・100キロ・ウルトラマラソン・チャレンジ」のスポンサーだ。

内陸部に産業を

静かな湖のほとりにある人口3000人の龍羊峡はこの10年、スポーツ好きの旅行客を呼び込もうと、16億元(約260億円)を投じて自転車の競技トラックや風光明媚な観光地を整備し、ホテルを改修してきた。そのほとんどは民間からの出資だ。

フルマラソンの数倍の距離を走るウルトラマラソンは通常、山野を駆け抜けるトレイルランニングの形で行われる。

龍羊峡の当局者がロイターの取材に応じることはなかった。だが、今年初めて開催された「スーパーサーモン」トレイルランニング大会には500人以上が参加し、町にただ1つの一泊300元(約4800円)のホテルは満室になった。大会終了後に数日延泊する客もいた。

Ying氏の会社は参加者に食用サーモンや、賞金1万5000元を提供した。男性の優勝者には、体重と同じ重さのサーモンを贈呈した。

国営メディアは、スポーツのイベントで観光客を呼び込む試みは成功だったと評価。今年になって龍羊峡の湖を訪れた観光客は1万人と、すでに昨年から倍増したとしている。

中国のスポーツ行政を所管する当局は2017年、龍羊峡を「スポーツと余暇の特別地区」に認定した。同局がリストアップした100カ所のうち、青海省から選ばれたのはここだけだった。

中国政府は20年までにこのような町を全土で1000カ所認定し、内陸部に持続可能な産業をもたらそうとしている。だが、そのすべてが収益を生むかどうか、疑問視する向きもある。

実際、龍羊峡に落ちる利益は、今のところまだわずかだ。8月上旬、町中心部の建物は空室ばかりで、カラオケ店には客は見当たらず、市場を走る通りにはゴミが散乱していた。

北京にあるスポーツイベントの企画会社Xinzhi Exploring Groupで大会運営を担当するYu Yanmeng氏は、利益が出るイベントはなかなかないと話す。

「こうしたレースやスポーツ活動は、いったん軌道に乗れば、地元の観光業や景観の影響力が広がり、町の顔になる。より知名度を高めて、経済成長を伸ばすことができる」と、Yu氏は話す。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論

ワールド

北朝鮮、日米のミサイル共同生産合意を批判 「安保リ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

EQT、日本の不動産部門責任者にKKR幹部を任命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中