最新記事

北朝鮮

北朝鮮、外国人旅行客の入国を突然停止 酷暑による電力不足か?

2018年8月15日(水)17時30分
中野鷹

雨の平壌 2017年8月撮影

<北朝鮮が突然、外国人旅行客の入国を停止した。大雨被害の復旧と言うが、酷暑による電力不足の可能性もある...>

「数年前のエボラ出血熱感染防止を理由に突然鎖国された悪夢を思い出す」と中国の旅行会社は肩を落とす。今月8日午後に届いた通知文には、「10日から20日まで外国人観光客の入国を停止する。理由は大雨によってホテル、観光地、道路に大きな被害が出ており復旧工事をするため」とわずか5行の通達だった。

今回の通知が異例なのは、その送り主にある。8日の通知は「朝鮮国際体育旅行社」からで、北朝鮮の一旅行会社が国の重要事項について送ってきたからだ。異例な事態はこの後も続き、10日には「朝鮮国際青少年旅行社」、同日に「金剛山国際旅行社」から相次いで入国停止についての告知が届いた。

nakano02.jpg

中国の旅行会社へ届いた金剛山国際旅行社名義の緊急告知

しかも内容が微妙に異なり、入国停止期間も工事にかかる日数が、20日ほどだったり25日間だったりと統一性がなく、最長期間で数えると9月5日まで入国停止となるようだ。

「通常、このような重要な通知は旅行会社からではなく、すべての旅行会社を統括する観光総局の名前で出されるのが通例なのですが、どういうわけか今回は個別の旅行会社名義で届き、どれが正しいのか分からず困惑しています。しかも、キャンセル料の負担についての言及もないので、ツアーのキャンセル料は手配旅行社負担になりそうです」(中国丹東の旅行会社)

北朝鮮には、朝鮮人民軍直轄や労働党系など旅行会社が数十社あり、近年は中国人専門の旅行会社などが誕生するなど、その数を増やしている。それらから告知がバラバラに届いている状態なのだ。

本当に大雨の被害があったのか?

入国停止の理由が、大雨によって受けた被害でホテルが利用できない、観光地や道路の復旧工事のため、とあるが、今月6日まで平壌や羅先を旅行していた日本人旅行者に聞いてみると、

「北朝鮮も連日暑かったです。滞在中は雨も降らず、今年は農作物が心配になるとガイドさんが言ってました。出国時も問題なく中国経由でロシアを訪れてから帰国しましたが、中国、ロシアでも雨は降りませんでした」

北朝鮮や中国のニュースを探しても、先月上旬に西日本を襲った豪雨のときに北朝鮮でも大雨だったとの報道はあるが、それ以降は特に見当たらない。本当に平壌はホテルが利用できないほどの大雨被害を受けているのか、つい先日まで平壌にいた人の話からもかなり疑わしいと言わざるをえない。

「入国停止は、来月9日の建国記念日とその後3週間続くマスゲームへ向けて準備なのでしょうが、北朝鮮は大きなチャンスと捉えているようです。当初予定されていた9月末の秋の平壌マラソンも事実上取り止め、開催に含みを持たせていた大同江ビール祭りもやらないようです。それだけマスゲームによる外貨収入が大きいのでしょう。2013年まで最高席は300ユーロだったのが、今回は3倍近い800ユーロになっています。さすがにこれはやりすぎかと思いますが、それだけ強気になれるくらい集客に自信があるのでしょう」(瀋陽の旅行会社代表)

酷暑で深刻な電力不足の可能性

一方、本当の理由は、北朝鮮が慢性的に苦しめられている問題なのではないかと指摘する声もある。

「この酷暑で深刻な電力不足に陥り、未来科学者通りをライトアップしたりするような、外国人観光客へ電力を回す余裕がないと考えるほうが自然です。平壌はここ数年で大きく発展していますが、電力事情自体は大きく向上していませんから」(北朝鮮と交易する中国人貿易商)

11日に中朝国境の丹東にある北朝鮮の旅行会社支社へ確認すると、確かに10日から全外国人旅行客の入国は停止されているとの返答で、入国再開は9月5日よりも早まる可能性もあるとのことだった。

なお、11日未明に発覚した北朝鮮での日本人拘束と今回の入国停止の関連性は低いと考えられるが、一体、今、北朝鮮で何が起きているのだろうか。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

カナダ首相、米関税に対抗措置講じると表明 3日にも

ビジネス

米、中国からの小包関税免除廃止 トランプ氏が大統領

ワールド

トランプ氏支持率2期目で最低の43%、関税や情報管

ワールド

日本の相互関税24%、トランプ氏コメに言及 安倍元
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中