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北朝鮮金正恩の背後の足場に「死亡事故を予感」させる恐怖写真
三池淵郡の建設現場を視察する金正恩。後ろに見える建物の足場がいかにも心もとない KCNA-REUTERS
<金正恩の建設現場の視察を報じる写真に写っていたのは、専門家が見れば「見るからに不安」を感じるほどのずさんな作りの足場>
北朝鮮では「速度戦」の名の下に、無理な工期のごり押しによる手抜き工事が横行。また、安全設備がないことがほとんどで、死亡事故が頻発している。
例えば1989年4月、高速道路の建設現場で、建設途中の橋が崩落する事故が発生した。この時、現場にいた500人が120メートル下の川原に落下。後に韓国へ逃れた目撃者たちの証言によれば、川原には原形をとどめない死体が散乱し、救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。
<参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図>
北朝鮮当局が進める巨大プロジェクト「端川(タンチョン)発電所」の建設現場では、建設に動員された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)護衛司令部1旅団だけで、1ヶ月に34人の兵士が死亡している。つまり、実際はこれよりもはるかに多くの命が失われているということだ。
これは、金正恩氏が現地指導を行うような、重要な現場でも同じである。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信や朝鮮労働党機関紙の労働新聞は10日、金正恩党委員長が中国との国境地域にある両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡の各所の視察を行ったことを大きく報じた。
公開された写真の中には、金正恩氏が建設現場を視察する様子を収めたもの(冒頭の写真)があるが、背景に写っている建設中の建物に、転落事故を防止するためのフェンスらしきものは見当たらない。また、足場には木材が使われており、まるで鳥の巣のように乱雑に組まれている。
<参考記事: 【写真と解説】危険すぎる!金正恩氏が視察した北朝鮮の建設現場>
この画像を見た韓国の建築専門家は、デイリーNKの取材に対して「木材の特性上、均一性を保つのが難しく、足場として使うのは限界がある」とし、「見えないところに節目や、虫食いによる『鬆』(す)が入っているおそれがあり、折れれば周囲を巻き込んで崩落する危険性がある」と指摘した。
また、「施工がきちんとしていないせいか、(足場の)柱がゆがんでいる、垂直荷重を支えきれず、見るからに不安だ」とも指摘した。
別の専門家も「資材供給が円滑でないことから、(足場に)木材を使っているものと思われる」「木材を使うことは可能だが、高層建築の場合は限界がある。また、落下防止用のフェンスも設置されていないため、事故のおそれがある」と述べた。
北朝鮮の大規模プロジェクトに、国民の「生き血」を吸わずに完成したものはわずかしかないはずだ。金正恩氏には、建設事業を安全に進めることもまた、指導者の仕事であるということを、1日も早く理解してもらいたい。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。