最新記事

薬物汚染

フィリピンで麻薬対策を小学生まで拡大、持ち物検査に検尿まで 教育界は猛反発

2018年7月11日(水)19時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

キャンディーのようにカラフルな色が付けられた薬物が10代の子供たちをむしばんでいく  ABS-CBN News / YouTube

<極端なまでに強硬な麻薬取締を行うフィリピンのドゥテルテ政権。今度は取り締まりの対象を小学生にまで広げるという>

ドゥテルテ大統領が強力に進めている麻薬関連犯罪対策は、その極端な「超法規的殺人」を巡って国際社会やキリスト教組織から厳しい批判を受けているものの、国内的には一定の効果を挙げているとされる。

その麻薬対策を巡って麻薬取り締まり当局と教育関係者の対立が激化している。理由は、2018年6月末に「フィリピン麻薬取締局(PDEA)」が教育現場での麻薬対策強化の一環として新方針導入を検討していることが明らかになったためだ。

導入が検討されている新方針には学校の生徒・児童のロッカーや所持品の検査に加えてアトランダム(無作為)に麻薬の使用を調べる検査(尿検査)を実施することなどが盛り込まれており、高校生、中学生に加えて10歳以上の小学生や教職員も対象となるという。

これには教育省や学校関係者、PTA、そして麻薬問題専門機関も「子供の人権問題に関わる重大な問題」「現行法では認められない」「麻薬戦争を学校に持ち込むことになる」などとして一斉に反対を表明する事態になっている。

調査対象児童・生徒は1400万人

PDEAによると、全国の小学校高学年にあたる4〜6年生の児童約1400万人を対象にして学校内のロッカーなど私物保管場所、学校に持参するカバンや手荷物の検査、さらに全員ではなく無作為に抽出した児童への尿検査を実施する計画という。

調査対象を低年齢の児童まで範囲を広げたことについて、PDEAや警察当局は「これまで麻薬捜査で踏み込んだ現場や麻薬使用人の巣窟とされる場所には、実際に子供がいて救出した例がマニラ近郊で複数件あったため」と説明している。

そして麻薬捜査当局は、関係機関での協議を経て今後全ての大学生、高校生、中学校生、小学校高学年、さらに全ての教職員に対して無作為の尿検査実施を可能にする法改正案を提案したいとしている。

これに対しフィリピンの「危険薬物委員会(DDB)」のカタリノ・チュイ政策部代表は地元紙に対して「すでに教育現場では麻薬防止対策は講じられている」として教育現場での啓蒙活動、麻薬の危険性に関するガイダンスを実施しており、その効果も出ている」と指摘。新たな強化策の導入に疑問を示している。

さらに「警察は必要な場合に限って教育現場に介入するべきである」と述べ、日常的な持ち物やロッカーの検査、そして尿検査は必要ないとの立場を明らかにしている。


学校内への麻薬対策には賛否があるが、10代の薬物汚染は深刻なのも事実 ABS-CBN News / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中