トランプ暴露本の著者は「フェイク」ジャーナリストなのか?
『炎と怒り』著者としてNBCの『トゥデー』でインタビューに臨むウルフ BRENDAN MCDERMID-REUTERS
<ニューズウィーク日本版1月16日発売号(2018年1月23日号)は、緊急特集「トランプ暴露本 政権崩壊の序章」。話題の暴露本『炎と怒り(Fire and Fury)』の知っておくべきポイントと無視できない影響力を検証したこの特集から、本の著者マイケル・ウルフのプロフィール記事を転載。果たして暴露本騒動はトランプ政権の終わりの始まりとなるのか?>
マイケル・ウルフは、記者人生で絶頂を極めたのかもしれない。
ジャーナリスト兼作家、今やメディアの寵児であるウルフは、メディア王ルパート・マードックや不祥事を起こした映画プロデューサーのハービー・ワインスティーンといった富豪や有力者を取材。執筆で得たコネでニューヨークのセレブに成り上がった。彼の恋愛はゴシップ誌のネタとなり、彼の著作はUSニューズ&ワールドリポート誌オーナー兼編集長モーティマー・ザッカーマンの称賛を受けた。
04年のニュー・リパブリック誌の人物ルポで、筆者のミシェル・コトルはウルフをこう評した。「典型的なニューヨークの権化で、ご執心なのは文化、スタイル、流行、そしてカネ、カネ、カネ」。ウルフにとって、億万長者ほどそそられるものはない、とコトルは書いた。それが事実なら、億万長者の政権について書くことほど興味深いことがウルフにあり得ようか。ウルフは今、『炎と怒り』で注目の的だ。
御世辞の上手な肖像画家
ウルフは熟練した生涯一記者だ。ニュージャージー州生まれで、新聞記者の母マーガレットと宣伝マンの父ルイスのもとで育った。大人になって仕事の経験を積むにつれて、両親譲りの才能を開花させた。
その経歴はニューヨーク・タイムズ紙の雑用係から始まった。続いてニューヨーク誌のコラムニスト、ガーディアン紙やハリウッド・リポーター誌、GQ誌イギリス版の常連筆者となった。これらのメディアは今回、軒並み『炎と怒り』の抜粋を掲載している。
USAトゥデー紙のコラムやバニティ・フェア誌の編集にも携わり、少しの間だけ業界誌アドウィークの編集長だったこともある。02年と04年に評論で全米雑誌賞を受賞。03年にも候補となった。07年には記事まとめサイト「ニューサー」を始めた。
それだけ派手な経歴がありながらも、いまツイッターやニュースサイトのレディットは『炎と怒り』を偽ニュースと非難する人にあふれている。攻撃材料として、ウルフの著作に対する過去の疑惑の数々が掘り返された。
レディットのトランプ板では、「偽ニュースどころか、偽コメントが人物の実名入りで書かれている」と告発されている。レディットのユーザーたちはブリルズ・コンテント誌(休刊)の告発記事を発掘。98年のウルフの著作『バーン・レート』に出てくる複数の人々がウルフは「発言を偽造、変更した」と暴露している。
08年には、ニューヨーク・タイムズのデービッド・カーもウルフのマードック評伝を辛辣に書評した。「ウルフの業績を歴史的に振り返れば、その問題点は、全てをお見通しであるかのような視点で書きながら、事実誤認が散見されることだ」