最新記事

朝鮮半島

南北会談をトランプの手柄にした文在寅の計算

2018年1月11日(木)17時20分
ジョシュア・キーティング

年頭記者会見で質問に答える韓国の文在寅大統領(1月10日、ソウル) Kim Hong-Ji- REUTERS

<金正恩が会談に応じたのは、核抑止力の獲得へ一定のメドがついたからだと言われる。だがトランプに知らせる必要はない>

韓国と北朝鮮は1月9日、南北の軍事境界線上の非武装中立地帯(DMZ)で2年ぶりに南北高官級会談を開いた。来月の平昌冬季五輪を前に、朝鮮半島の緊張をわずかながら緩和する劇的な動きだ。

南北会談は歓迎すべき展開だが、これが真の緊張緩和につながるとはあまり期待しないほうがいい。まず今回の会談では、北朝鮮の非核化が議論されなかった。北朝鮮は、核兵器はアメリカだけを狙ったものなので、アジアの周辺国は対象外だと主張した。米政府内では、北朝鮮の狙いは圧力重視のアメリカと対話重視の韓国との間に楔を打ち込むことだとして、南北対話に懐疑的な見方も強い。

ドナルド・トランプ米政権はここ数カ月、北朝鮮の核放棄の意思表示を対話の条件とするか否かをめぐり意見の違いを露呈してきた。しかもその一方でアメリカは、北朝鮮の核施設やミサイル発射場に標的を絞った限定攻撃を公然と検討している。もし実行すれば、北朝鮮の報復攻撃でソウルが破壊されるシナリオだ。極めつけはトランプ自身。北朝鮮との交渉を「時間の無駄」と言ったり金正恩朝鮮労働党委員長に「会ってもいい」と言うなど、意見がコロコロ変わる。感情的になりやすく、いつまた金をツイッターで侮辱するかわからない。

トランプは昨年、北朝鮮との対話を模索していたレックス・ティラーソン米国務長官の外交努力を平気で踏みにじった。韓国に同じことをしても不思議ではない。

ここまで言えば、南北会談翌日の韓国の文在寅大統領の発言がどれほど賢明なものだったか分かるだろう。

「トランプ大統領が南北対話の実現に果たした功績は大きい、感謝を申し上げたい」と、文は1月10日の年頭記者会見で言った。「これはアメリカ主導の制裁と圧力の成果だろう」

トランプが知らないこと

文の発言は、トランプの1月4日のツイートに呼応している。トランプは、「もし、私が断固とした強い姿勢で全力で北朝鮮問題に対処していなければ、まさに今、北朝鮮と韓国の間で対話が行われようとしていることを誰が信じただろうか」と書き込み、北朝鮮の態度を変えさせたのは自分だと自画自賛した。

アメリカ主導の国際的な圧力が北朝鮮を交渉のテーブルに引っ張り出すうえで一定の役割を果たしたのは事実だろう。だが、金がこの時点で交渉に前向きになった最大の理由は、長年の悲願である核抑止力の獲得に向けて大きな技術的課題を克服したからだ、という見方でアメリカの専門家の見方は概ね一致している。

だがそれをわざわざトランプに知らせる必要はない。大統領に就任した昨年、文は学習した。朝鮮半島の平和へ向けた努力をトランプに吹き飛ばされないためには、成果はすべて彼の手柄にしてやるのが得策だ、と。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中