最新記事

中国

「北を支援」中共機密文書は偽造

2018年1月6日(土)20時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

米メディアが暴露した中共機密文書(左)と、本物の公文書(右)

1月2日、米メディア「ワシントン・フリー・ビーコン」が「中国が北朝鮮の核を容認し支援を増強させる約束をした」という中共中央の機密文書を暴露した。しかしその文書は明らかに偽造。その証拠を考察する。

ワシントン・フリー・ビーコンが暴露した内容

1月2日、アメリカのニュースサイト「ワシントン・フリー・ビーコン」(ビーコンはbeaconで、灯台とか指針となる標識)は、中共中央の機密文書を入手したとして、このページのトップに掲載した「中共中央弁公庁文件」なるものを公開した(写真上側の黒っぽい方)。

そこには北朝鮮がさらなる核実験を自制するならば、中国は今後北朝鮮の核・ミサイル開発に関し、新型の短・中距離弾道ミサイルなどの軍事援助を含む経済的支援および技術的支援を拡大させるなどの秘密計画が書いてある。さらに北朝鮮による現有核戦力の保持の容認や、金正恩(キム・ジョンウン)体制を保証するという確約も明記してある。

文書は2017年9月に発布されたとしており、中共中央(中国共産党中央委員会)弁公庁が中共中央内部の部局の一つである対外聯絡部に対して指示する形式を取っている。

内容を詳細に書いても、この文書は、見た瞬間に偽物だと判定できるので、ここではむしろ、なぜこれが偽造文書であると断定できるのか、その論拠を詳細に述べたい。中国共産党内部の政治を知っている者なら、見た瞬間に「偽造だ」と判定できる。

偽造文書であると断定できる証拠

まず、本ページのトップに掲載した写真をご説明したい。

上側にある黒っぽいのが、「ワシントン・フリー・ビーコン」が暴露した「機密文書」である。これを「文書1」と名付けて区別することとする。

下側に置いた白っぽい文書は、本物の公文書で、中共中央弁公庁が2012年に発布したものである。これを「文書2」と名づけることとしよう。これは比較のために筆者が適宜、過去の「中共中央弁公庁文件」の公文書から抜き出したものである。

では、以下、偽造と断定できる論拠を列挙する(以下、「公文書」は「中共中央弁公庁文件」の公文書を指す)。

1.文書1の左上をご覧いただきたい。見分けにくいが、ここにどうやら「No.000003」と書いてある。しかし本物の公文書のこの位置には番号はなく、ましてや「No.」(ナンバー)という書き方は公文書にはない。公文書を集めて、図書館などが保存するためにファイルナンバーを付けるときには、概ね、この位置に「No.●●...●」の形でゴム印などが捺してあることが多い。偽造者は、そういった文書をネットで見つけて、うっかり真似してしまったものと思う。これは決定的な証拠で、他を論ずる必要がないほどだ。しかし念のため他の論拠も以下に列挙する。

2.番号を打つ必要が生じたときには、赤線のすぐ下の左側に書く。もちろん、その場合も「No.」という文字はない。また「機密」の場合は「机密」という文字が、同じように赤線の下の左側に書いてある。「最高機密」は「絶密」と書くことが多いが、文書の左上に書くことはない。

3.文書1には「中共中央弁公庁文件」とあるが、一般に「中共中央弁公庁文件」の場合は、「国務院弁公庁」と並列で発布する。 下側にある文書2をご覧いただければお分かりいただけるように、「中共中央弁公庁文件」なのに、赤線の下には同名称とともに「国務院弁公庁」という文字があることが見て取れる。これはよく「中共中央・国務院は」という文言で始まる通達の類いである。「中共中央弁公庁文件」と「国務院弁公庁」が赤線の上に書いてある場合もあるが、いずれにせよ抱き合わせである。

4.しかし文書1には、赤線の下に「国務院弁公庁」の名称がない。中共中央のある部局に対する決定や指示の場合は、「中共中央文件」という名称で発布する。「弁公庁」という文字があるのはおかしい。

5.文書1の赤線の下には、「朝鮮民主主義人民共和国」という名称が書いてあるが、中国では北朝鮮のことを単に「朝鮮」と称する。協定書(締結書)などならば、「朝鮮民主主義人民共和国」と書くが、これは中共中央弁公庁が中共中央対外聯絡部に出した決定の指示書の形を取っているので、ここに「朝鮮民主主義人民共和国」とあるのは不自然である。「朝鮮」と書くのが自然。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米USTR代表がベトナム商工相と会談、相互貿易進展

ワールド

WTO、EUの訴え棄却 中国の知財ルール違反巡り

ワールド

アングル:米政権の貿易戦争、世界の企業が警戒 値上

ビジネス

5月から総合CPI利用した実質賃金を公表、国際比較
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 9
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 10
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中