最新記事

アメリカ社会

アラバマ州の貧困は先進国で最悪──国連

2017年12月14日(木)17時30分
カルロス・バレステロス

アラバマ州の綿花畑 Michael Spooneybarger-REUTERS

<アメリカはいつも他国の人権状況の監視に熱心だが、今度はアメリカが調べられる番だと、国連特別報告者は言う。「文明社会は貧困を自業自得として放置したりしない」>

アメリカの貧困状況を調査中の国連特別報告者は、南部アラバマ州の山間部の生活環境の悪化を目の当たりにして、衝撃を受けた。先進国では見たことのないレベルだった。

「先進国とは思えない、異様な光景だ」と、アメリカで極度の貧困を調査するフィリップ・アルストン国連特別報告者は12月初め、地元メディアに語った。アラバマ州南部バトラー郡の集落を視察中だった。そこは、「各家庭から排出される未処理の汚水が、野ざらしになった排水用塩化ビニル管を伝って側溝に垂れ流されていた」という。

この視察は、アメリカの貧困と人権状況を調査する2週間の国連事業の一環だ。調査団はすでにカリフォルニア州、アラバマ州の都市や町を視察し、今後は米自治領プエルトリコ、首都ワシントン、ウェスト・バージニア州に向かう予定だ。

なぜアメリカに鉤虫感染症が?

アルストンが特に懸念するのは、全米各地でここ数年、貧困が原因の問題が表面化していることだ。アラバマ州では今年、鉤虫が腸に寄生してかゆみなどの症状を引き起こす鉤虫感染症が流行した。これは本来、南アジアやサハラ砂漠以南のアフリカ諸国など、衛生状態が劣悪な国に典型的な病気だと、英紙ガーディアンは報じた。

アメリカのような豊かな国で、組織的な貧困がもたらす弊害を研究するのが、調査の目的だ。

米国勢調査局が今年9月に発表した報告書によれば、アメリカの貧困層は4100万人に達する。米ビジネスニュースサイト「クオーツ」は、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国の中で、アメリカの貧困率は2番目に高いと指摘した。貧困率とは、手取り収入が国民1人当たりの所得の中央値の半分以下しかない人の割合だ。

所得格差で最も大きな影響を受けるのは人種的なマイノリティだ。国勢調査を分析したアニー・E・ケイシー財団によると、黒人やヒスパニック、ネイティブ・アメリカンの子供が貧困家庭で育つ確率は白人の2~3倍に上る。米労働省労働統計局が発表した統計を1975年まで遡って分析しても、アメリカのマイノリティは白人より失業率が高く、労働時間は長く、平均所得は少ないままだと、米アトランティック誌も2013年に報じた。

所得格差と人種差別は、公民権の侵害にも結び付いてきた。アラバマ州をはじめとする南部諸州では、その傾向が特に深刻だ。アメリカで武器を持たない黒人を警察官が射殺する事件が相次ぐ事態にも、国連は懸念を深めている。

米ニューヨーク大学の教授(法律)でもあるアルストンは、今回の調査開始を発表した声明で、アメリカの貧困問題はあまりに長い間放置されてきたと言った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英投資家、3月に米国株を大量購入 相互関税発表前

ビジネス

米国「まるで新興国」、関税巡る世界的混乱でユーロネ

ビジネス

自工会会長、「産業基盤瓦解の危機」 経産相に米関税

ワールド

米軍高官の「粛清」続く、NATO軍事委代表の女性海
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 7
    反トランプのうねり、どこまで大きくなればアメリカ…
  • 8
    フジテレビが中居正広に対し損害賠償を請求すべき理由
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    流石にこれは「非常識」?...夜間フライト中に乗客が…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 7
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 8
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中