トランプを追い込む特別検察官の秘策
フリンの捜査協力はロシア疑惑の捜査を一変させる可能性がある Jonathan Ernst-REUTERS
<フリン前大統領補佐官との司法取引で捜査協力を引き出し、沈黙するロシア疑惑関係者の「寝返り」を狙う>
トランプ政権のロシア疑惑を捜査するムラー特別検察官は12月1日、フリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)をFBIに虚偽の供述をした罪で訴追したと発表。同じ日にフリンは法廷で有罪を認め、ムラーに全面協力する意向を示した。
この件で有罪を認めて捜査に協力する見返りに、それ以外の罪については訴追を免れるという条件で司法取引に応じた格好だ。フリンがトランプ本人を含む政権中枢に不利な証言を行うことに同意したのは間違いないとみられる。
この司法取引のポイントは3つある。トランプの恩赦の威力(つまり関係者に沈黙を守らせる力)を無効化するムラーの戦略の一環であること。次に、トランプが「司法妨害」に問われる可能性が一気に高まったこと。そしてトランプ本人に加え、ペンス副大統領も厄介な立場に追い込まれたことだ。
フリンは司法取引に応じたが、大統領の恩赦の対象になるのは連邦法違反の犯罪だけだ。ロシア疑惑に関連してこれまでに起訴された3人(大統領選でトランプ陣営の選対本部長だったポール・マナフォートとそのビジネスパートナーだったリック・ゲーツ、トランプ陣営の元外交顧問ジョージ・パパドプロス)の場合と同様、州法レベルで罪に問われる可能性はまだ残っている。
副大統領も司法妨害?
11月10日のウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、フリンは息子と共に、トルコのエルドアン大統領の政敵で、16年7月のクーデター未遂事件の首謀者としてトルコ政府から身柄引き渡しを要求されているフェトフッラー・ギュレン師を超法規的に「強制送還」し、1500万ドルもの大金をせしめる計画を練っていたとされる。これが事実なら、現在ギュレン師が住むペンシルベニア州の検察当局は贈収賄と誘拐計画の2つの罪でフリンを訴追できる。
トランプの司法妨害については、本人が既にテレビ番組で妨害の意図を認めている。FBIのコミー長官(当時)の解任理由の説明は、大統領選のトランプ陣営とロシアの関係を捜査されるのを阻止するためだったと告白したも同然だ。更迭された側のコミーも上院情報特別委員会で、トランプはフリンを守ろうと繰り返し介入したと証言した。
そして今回、フリンは虚偽の供述の件で有罪を認め、ロシア側との接触を指示した人物としてトランプの娘婿クシュナー上級顧問の名前を出したとされる。今後ムラーの捜査に協力する過程では、おそらくもっと多くの事実を話すだろう。それにつれて大統領の司法妨害に対する世論の風当たりも強まり、ロシア疑惑を審理する法廷や弾劾裁判を開く権利を持つ議会への影響も大きくなるはずだ。