最新記事

記憶

スポーツや楽器の演奏など、新しいスキルを2倍早く覚える方法とは

2017年12月6日(水)21時00分
松岡由希子

トレーニングの効果を倍増させるちょっとしたコツとは? Imgorthand-iStock

<米ジョンズ・ホプキンズ大学の研究プロジェクトが、新しいスキルを学習する際、より速く、より正確に、習得できる方法を発表した>

従来、スポーツや楽器の演奏など、新しい運動技能を身につけるためには、同じ動作を何度も繰り返すことが肝要と考えられてきたが、実は、ちょっとした工夫によって、この習得プロセスを効率化できるようだ。

米ジョンズ・ホプキンズ大学の研究プロジェクトが2016年に学術雑誌「カレントバイオロジー」で発表した研究論文によると、新しいスキルを学習する際、動作に多少の変化を加えながら反復練習すると、単に同じ動きを繰り返すよりも短時間でそのスキルを習得できるという。

3つのグループに分け習得の精度を比較

この研究プロジェクトでは、被験者86名を対象に、小型デバイスを使ってコンピュータ画面上のカーソルを移動させるという新しい操作を習得するためのトレーニングを実施。

記憶の固定化に必要とされる6時間を経過した後、同一のトレーニングを繰り返すグループ、わずかに内容を変更したトレーニングを実施するグループ、何らのトレーニングも行わないグループの3つに被験者たちを分け、その翌日、トレーニングで教えた動作をそれぞれのグループに再現させて、精度を比較した。

その結果、翌日までトレーニングを一切行わなかったグループが最も精度が低く、同一のトレーニングを繰り返したグループに比べて約25%精度が劣っていた一方、トレーニングの内容を少し変更したグループは、同一のトレーニングを繰り返したグループに比べて約2倍も高い精度を記録した。

では、同一のトレーニングを繰り返すよりも、少し変化させたトレーニングを行うほうが、より正確にスキルを習得できたのは、なぜなのだろうか。

変化をわずかなものにとどめるのがポイント

研究プロジェクトでは、既存の記憶が思い起こされ、新しい知識で修正されるプロセス、いわゆる"記憶の再統合"が何らかの作用をもたらしているのではないかと考察。

長年、"記憶の再統合"が運動技能の強化に役立つのではないかとの仮説はあったが、この実験結果は、"記憶の再統合"が運動技能の向上に関してどのように作用しているのかを示すものとして評価されている。

ただし、"記憶の再統合"の作用を新しいスキルの習得に活かすためには、トレーニングごとの変化をわずかなものにとどめるのがポイントだ。

この研究論文の筆頭著者であるパブロ・セルニック教授は、「変化させた内容が元のものと大きく異なると、"記憶の再統合"によるメリットが享受できなくなってしまう。」と指摘している。

あらゆる運動技能の習得においてこのメカニズムが働くのかどうかについては、さらなる研究が必要だが、たとえば、サッカーの練習でボールの大きさや重さを変えてみるなど、トレーニングに多少の工夫を施すだけで、より速く、より正確に、新たなスキルが習得できるのだとしたら、一度、試してみる価値はありそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中